ブロークバック・マウンテン (2005)
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ロデオからトラクターへ
2006/03/24
by
カイタカケン
ジャックもイニスも貧しい家庭の出身、満足な学業も受けられず、西部の保守的な土地柄、プロテスタント派の素朴だが頑固なまでに「変化」を嫌う価値観の中で、お互い『居場所』を失った者達が、「羊」並みの扱い(羊以下かも)しか受けられない季節労働の仕事を介して、運命の出会いをします。
イニスは臆病なほど「変化」を嫌う性格です。
彼はカウボーイとして生まれ、育ち、ワイオミング州から一度も出る事もなく一生を終える事に不満を感じた事さえなかったでしょう。
(彼の結婚式は、19世紀のものと言われても違和感が無かったくらい素朴なものでした)
一方、ジャックは念願のロデオ優勝を果たした後、テキサスの金持ち娘との結婚に漕ぎ着け、「階級」からの脱出に成功します。
いわば、彼は「ロデオからトラクター」に自分の意思で選択して乗り換えたのです。
二人の性格の違いは結婚生活にも歴然とした差として表れます。
イニスは妻とのsexを子供を作る為だけの行為だといって、離婚のきっかけを作ってしまうのですが、現在の私達からすれば考えられないくらい時代錯誤の考え方も、イニスの置かれてきた環境が生み出したものです。
彼はそれ以外の価値観があることすら知らないのでしょう。
それでも彼は、一時は妻の希望を受け入れ、子供達のために町へ引越しをします。
これが急激な「変化」を嫌う彼にとって精一杯の譲歩です。
イニスの妻は離婚後、「感謝祭のターキー」を電動ナイフで切り分ける事に何の違和感も持たない人物と再婚します。
穏やかでいい夫でも、彼女の生まれもっていた価値観からは遠く離れた人間です。
アン・リー監督はこういった演出を加えてきます。
人間考察の深さに身体が震えました。
イニスの妻とは対照的に、ジャックの妻は夫がゲイである事を知った上で、それを受けていたと思います。
彼女の変化は、ヘアースタイルによく表れていました。
そこには、運命に流されるだけの人生を拒否する意思の強さを感じさせます。
ジャックが夢見ていた、故郷での牧場経営(勿論イニスと)も、見方を変えれば、自分の『居場所』を作りたかったとも考えられます。
それは、幻の様な『ブロークバック・マウンテン』ではなく、両親の傍らでなければならなかったのでしょう。
彼は遺灰となって始めて、保守的な父親に受け入れられ、埋葬されたのです。
ラストシーンで、イニスは娘の衣類を丁寧にたたみ、ジャックとの思い出のシャツを『クローゼット』の中に誓いの言葉と共に、封印しました(私にはそのように感じられたものですから…)
牧場の仕事にずっと拘っていた彼が、娘の結婚式にはスケジュールの調整をする事を誓います。
これは、ようやく自分の『居場所』を得た彼が(それが、トレーラーハウスであったとしても)自らの意思で受け入れた「変化」の兆しであったと思います。
この作品は、ゲイとヘテロの愛の物語というだけではなく、人生の苦悩や孤独の中から、「居場所」を求める人間の物語としての普遍性を持ちえていると思います。
まだまだ、充分咀嚼し切れていませんが、とりあえずの感想です。
見直すと、考えが変わるかもしれませんが…笑
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Re: ロデオからトラクターへ
2006/03/30 by
福太郎> ジャックもイニスも貧しい家庭の出身、満足な学業も受けられず、西部の保守的な土地柄、プロテスタント派の素朴だが頑固なまでに「変化」を嫌う価値観の中で、お互い『居場所』を失った者達が、「羊」並みの扱い(羊以下かも)しか受けられない季節労働の仕事を介して、運命の出会いをします。
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> イニスは臆病なほど「変化」を嫌う性格です。
> 彼はカウボーイとして生まれ、育ち、ワイオミング州から一度も出る事もなく一生を終える事に不満を感じた事さえなかったでしょう。
> (彼の結婚式は、19世紀のものと言われても違和感が無かったくらい素朴なものでした)
>
> 一方、ジャックは念願のロデオ優勝を果たした後、テキサスの金持ち娘との結婚に漕ぎ着け、「階級」からの脱出に成功します。
> いわば、彼は「ロデオからトラクター」に自分の意思で選択して乗り換えたのです。
>
> 二人の性格の違いは結婚生活にも歴然とした差として表れます。
> イニスは妻とのsexを子供を作る為だけの行為だといって、離婚のきっかけを作ってしまうのですが、現在の私達からすれば考えられないくらい時代錯誤の考え方も、イニスの置かれてきた環境が生み出したものです。
> 彼はそれ以外の価値観があることすら知らないのでしょう。
> それでも彼は、一時は妻の希望を受け入れ、子供達のために町へ引越しをします。
> これが急激な「変化」を嫌う彼にとって精一杯の譲歩です。
>
> イニスの妻は離婚後、「感謝祭のターキー」を電動ナイフで切り分ける事に何の違和感も持たない人物と再婚します。
> 穏やかでいい夫でも、彼女の生まれもっていた価値観からは遠く離れた人間です。
> アン・リー監督はこういった演出を加えてきます。
> 人間考察の深さに身体が震えました。
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> イニスの妻とは対照的に、ジャックの妻は夫がゲイである事を知った上で、それを受けていたと思います。
> 彼女の変化は、ヘアースタイルによく表れていました。
> そこには、運命に流されるだけの人生を拒否する意思の強さを感じさせます。
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> ジャックが夢見ていた、故郷での牧場経営(勿論イニスと)も、見方を変えれば、自分の『居場所』を作りたかったとも考えられます。
> それは、幻の様な『ブロークバック・マウンテン』ではなく、両親の傍らでなければならなかったのでしょう。
> 彼は遺灰となって始めて、保守的な父親に受け入れられ、埋葬されたのです。
>
> ラストシーンで、イニスは娘の衣類を丁寧にたたみ、ジャックとの思い出のシャツを『クローゼット』の中に誓いの言葉と共に、封印しました(私にはそのように感じられたものですから…)
> 牧場の仕事にずっと拘っていた彼が、娘の結婚式にはスケジュールの調整をする事を誓います。
> これは、ようやく自分の『居場所』を得た彼が(それが、トレーラーハウスであったとしても)自らの意思で受け入れた「変化」の兆しであったと思います。
>
> この作品は、ゲイとヘテロの愛の物語というだけではなく、人生の苦悩や孤独の中から、「居場所」を求める人間の物語としての普遍性を持ちえていると思います。
> まだまだ、充分咀嚼し切れていませんが、とりあえずの感想です。
> 見直すと、考えが変わるかもしれませんが…笑
カイタカケンさん
今日見てきました。新宿で。朝一番。女性たちで一杯でした。
アンリーは大好きな監督です。アカデミー賞で騒がれて、今までアンリーの繊細な演出を知らなかった人たちが、このスンバラシイ映画を見てファンになってくれたらいいなあと思ってます。
ここの批評沢山読ませてもらいましたが、カイタカケンさんの評が一番ストンと落ちました。細かく観察されており、的確な指摘だと感心しました。充分、咀嚼してらっしゃいます。
まず、題名の、ロデオからトラクターへ がいいですね。そして、苦悩と孤独の中から「居場所」を求める人間の物語、と書かれましたが、本当にその通りだと思います。 彼の作品は、特殊な時代、特殊な環境を描いていても、普遍性を持ち、広く共感をもたれる作品が多いです。
前半の自然描写の大きさと細やかさ。とりわけ労働の描き方が素晴らしい。以前見て感動した、テレンスマリック監督の「天国の日々」の過酷な自然の中の労働場面を思い出しました。良い作品には詩情が感じられます。
こんな素晴らしい作品がアカデミーの作品賞を取れなかったのは、
実に残念。アンリーが可哀想。でも、これ以上の作品で、最終的にはゲットしてくれることを心から祈っています。 -
変わりゆくものと、変われないもの
2006/03/31 by
カイタカケン始めまして、福太郎様。レスありがとうございました。
アメリカの背骨、ロッキー山脈が縦断するワイオミング。
別名、カウボーイ州とも呼ばれるそうです。
1960年代、システムとしての大量生産、大量消費が定着し、家族的経営の零細な牧場が巨大資本に集約され、衰退していった時期です。
イニスの生家の牧場も、両親の死後、銀行の手に渡っていますし、ジャックの実家も決して裕福とは呼べません。
二人が出会った短い夏、立ったまま居眠りをしていたジャックを後ろから抱きとめていたイニス。
父親との確執を抱えていたジャックにとって、イニスの優しさは父親に抱かれる様な安らぎを与えてくれたのかも知れません。
「前半の自然描写の大きさと細やかさ。とりわけ労働の描き方が素晴らしい」
本当に、美しい映像でしたね。
山嶺に湧き上がる雄大な雲、清烈な川の流れ、そして山の斜面を覆い尽くす羊、羊、羊の群れ…
(雹の降った嵐の後、他牧場の羊と区別する為の「印」が消えてしまったエピソードは、象徴的なものを感じます)
「生命」を育み、やがては奪う牧童の仕事を通して、自然と対峙するのではなく、人間を含めたあらゆる生物が自然の一部と考える、アジアで生を受けたアン・リー監督のまなざしの深さを感じました。
(道路補修のアルバイトの映像はあっても、カウボーイの仕事の場面は、山を降りてからは一度もありませんでしたね)
アカデミー賞は残念でしたが(私はクラッシュも大好きな作品です)
大丈夫です、監督はまだまだお若いですから…
これからも心に染み入る作品を撮り続けられるでしょうし、そう願っております。 -
Re: ロデオからトラクターへ
2006/10/19 by
kokolokoカイタカケンさま
大変ご挨拶が遅くなりました。こちらの『ブロークバック・マウンテン』のカイタカケンさまの記事を読んですっかりファンになりました。
今年は『フラガール』とこちらの『ブロークバック・マウンテン』がマイベストになりそうな予感です。
自分ではうまく表現できなかった気持ちをカイタカケンさんが表現してくださった・・そんな感じです。
アン・リー監督の作品は今後も期待したいと思います! -
Re: ロデオからトラクターへ
2006/10/19 by
カイタカケンこんにちは、kokolokoさま。
ろくに整理もせず勢いのまま書いてしまった駄文に、お褒めの言葉を頂き、面映いおもいです。
元々映画館でそう多くを観る方ではないのですが(月に2回が平均ペースです)、今作品を観た後は他の作品を見る気には中々なれず、2ヶ月近く、ブロークバック・マウンテンで半ば遭難しておりました(笑)
エンドロールで流れる、『He was a friend of mine』には参りました。
しばらく座席から立ち上がれないくらい、すっかり心が持っていかれてしまいました。
こんな素晴らしい曲を使うアン・リー監督って、ズルイ!
私にとっても、間違いなく今年のマイベストになそうな作品です。
でも、イーストウッド御大の新作も控えていますし…どうしましょ♪
では、いつがどこかで…レスありがとうございました。
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