ミュンヘン (2005)
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関係を逆手に取る
2006/02/14
by
アキラ
先日『ノーディレクションホーム』でボブディランがウディガスリーに自分の歌を
聴かせたと話していた事をファン仲間に伝えたら「また吹いてたのか」と云われた。
どうも彼は若い頃から虚言癖があったらしい。一緒に旅をしたと語った事もあって
またある時は、自分の師匠だったとも語っていた。実際は病院を訪ねただけなのに。
全身小説家であった井上光晴みたいに多くの優れた作家にはこうした誇張癖がある。
特にユダヤ系は面白いらしい。スピルバーグ作品にはそんな妄想の広げ方の巧さを
感じさせる部分が映像的には今までも多々あったけど、今作品はその語り口自体に
その部分が出ているように思える。人物の関係自体を逆手に取っている感じだった。
最近の彼の作品は今までと全く違う方向を模索してるみたい。確かに社会派として
古くは『続激突』から『ターミナル』まで少し古い時事を扱った作品も多々あるが
今回はそれらとは全く違う世界だと思う。人間関係の見せ方において分かり易くを
捨てたのは、今回が初めてではないだろうか。それがサスペンス感になる訳だけど
果たしてこういう古典的な巧さを駆使し見せるべき題材だったのかと疑問は残った。
扱ってる素材自体を見ると確かに『シンドラーのリスト』以上にユダヤ系としての
アイデンティティを勘繰らせるが、その一方でこういう事もできます的な力自慢も
感じてしまう。でも変ってもスピルバーグはギタイになれないしその逆もまた然り。
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Re: 関係を逆手に取る
2006/03/16 by
Baad
はじめまして
> でも変ってもスピルバーグはギタイになれないしその逆もまた然り。
この一行が気になったので質問します。
ギタイとスピルバーグの違いというのは端的に言って、ディアスポラを選んだユダヤ人とイスラエル生まれのユダヤ人の違いと言うことでしょうか?
それとも技法とか作風といった映画的な面での違いでしょうか?
実は「ミュンヘン」を見たときまず連想したのがギタイの「キプールの記憶」で、テーマや主人公の心情の変化に共通したものを感じ、使える予算規模とか環境から来る立場の微妙な違い以外には大きな差を感じなかったのです。(そのように自分が感じたことに関してはちょっとビックリしましたが)
二人とも大変ナイーヴな部分を持っていてそれが長所になっている作家だと思うのですが、二人を隔てる大きな違い、というのはどこにあると、休業中さんは考えていらっしゃるのでしょうか? -
はじめまして
2006/03/21 by
アキラ
そもそも、あえてここにギタイの名を出しているのは類似点を感じるからです。絵的な事だけでも、同じクレーン少なめのローバジット作品は数多くあれど色の落とし具合やバックの建築物への角度の取り方など、模倣しなければなかなかここまでは似ないと思います。話の構成を見ていても回想シーンは近年の外国人労働者三部作での扱い方に似ています。扇情的な挿入ではなくサスペンスミステリーでよく見かける過去の情報を与える順番を整理した結果時間軸が動くタイプの挿入に思えます。ただその目的は大きく違って思えます。
建築業界から進路を変えたせいなのかギタイ作品には未だに映像自体のあり方を模索するような型破りさを感じます。イワンケルコフの様にパフォーマンスの一部として映像を選んだ様な直接的な感覚が生きています。『キプールの記憶』を例にするのならば、監督が実感したと語っていた"まずはカオスだ"って部分が直接的にイメージ化され、主人公の物語はその感覚に付属しているって印象です。あのアクションペインティングは物語以前の要素として必然だと受け取りました。ギタイ作品は物語よりも感覚を伝える事を最優先に描いているように思えます。スピルバーグ作品はどれももっと古典的演劇的表現にしっかりと依存していて今作でも複数の登場人物の感情を介して語るって基本的な部分は崩していません。手法の目的はテーマ自体なのか引き込むための効果なのかって所には壁があります。
極端な云い方をすれば映画に使われる巨匠と映画を使う奇才の違いでしょうか。若い頃から商業映画作家として注目される中で観客に媚び続けたスピルバーグと問題作と目を背けられても頑なに自分の問題意識を率直にぶつけ続けたギタイ。どちらも数多くの傑作を生んでいる偉人には違いないし尊敬する作家のひとりです。
でも比べてしまうとこの作品にはギタイ作品ほど突き抜けた部分は感じられずまたギタイ作品にもスピルバーグ作品みたいな周到な上手さは感じられません。過去のセルフイメージにとらわれないで驚かせ続ける姿勢は立派ですがその手法までもが多ジャンルに渡る最近のスピルバーグ作品を見ているともっとスピルバーグらしい上手さを生かした変わり方があるのでは?と思ってしまう訳です。ギタイは相変わらず我が道を行くって感じですけど。
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