父親たちの星条旗 (2006) »レビュー

不条理な戦争の真実

100点 2008/04/18 by 牧坂満

父親たちの星条旗

 硫黄島守備隊を指揮する栗林忠道中将は、昭和19年6月に硫黄島に赴任するときに東条英機首相から“どうかアッツ島のように戦ってくれ”と言われたといいます。増援は出来ないから玉砕するまで戦えという命令です。

 当時の戦線はサイパン、グアムなどから、スーパーフォートレス(超空の要塞)の異名を取るB29が護衛戦闘機がないまま爆撃機単独で日本国土を空襲していたのです。日本本土を往復する戦闘機の航続距離を考えれば絶対に必要な戦略拠点が硫黄島だった訳です。

 映画は、日米にとっての重要戦略ポイントとなった硫黄島の摺鉢山に星条旗を掲げるアメリカ軍海兵隊員たちの有名な写真を中心に不条理な戦争の真実を訴えます。六人の海兵隊員たちは英雄として凱旋帰国するのですが、戦時国債を販売するために広告塔として利用されてしまうことの虚しさが印象的でした。よって、ヒロイズムに酔いたい方にはお薦め出来ません。

 この映画には英雄などは登場しません。海兵隊員も硫黄島守備隊の日本兵たちも、ごく普通の一般人でしかありません。(左記の日本兵は別に撮られた映画「硫黄島からの手紙」)イーストウッド監督の冷徹な視線は、それらを描くことによって戦争に正義など存在しないことを訴えてきます。

 映画の構成で見事なのは、帰国した海兵隊員たちの回想によって、戦闘の真実が赤裸々に解明されていくことにあり、フラシュバックを上手く活用しています。強力火器による艦砲一斉射撃は超弩級の迫力ですが、攻防戦の戦場の実態は淡々と描かれます。それは戦争が不条理な流血であり、虚しい消耗戦であることを語るのです。

 私の青春時代のヒーローは現存する世界屈指の映画作家となりました。

 

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