白い馬の季節 (2005) »レビュー

説得力をもって伝わってくる

80点 2008/01/13 by Shiro

白い馬の季節

 古くから遊牧生活をしてきた内モンゴルの遊牧民たちは、ふたつの波に呑まれようとしている。資本主義化に伴う漢民族の進出と、砂漠化による草原の消失とである。多くの家族が遊牧生活を捨てて新しい生活を求めて町に出る中で、この3人家族の父親は、「自分は生まれついての羊飼いだ。羊飼い以外のことはできない」と頑なに現状に固執する。

 このセリフで思い出すのは、『鉄道員』の高倉健扮する駅長・乙松だ。彼も、守り続けてきた鉄道が廃線になる直前に、新しく始めたスキー場で働こうという友人の熱心な誘いを、「俺はぽっぽや以外のことはできん」と断る。

 この乙松の言葉は、自分は自分なりに鉄道員の仕事を通じて生涯を人々のために尽くしてきたという誇りから来たものだ。しかし、『白い馬の季節』の父親・ウルゲンの言葉は、余りにも大きな環境の変化に直面して、いかなる抵抗も無益に終わり、しかも結果的には妻の努力による収入だけが残るという事実の前に、一歩踏み出すことへの恐れの言葉でしかない。そして、だいたい恐れを克服できないのは男の方だ。

 ストーリーの構成は実に巧だ。冒頭にウルゲンが叔父に草地を借りる交渉に行っている間に、草原にまで押し寄せたワインの宣伝隊のパフォーマンスがあり、中国人のマネージャが片言のモンゴル語で自己紹介する。この場面だけで、映画のバックグラウンドが全部紹介される。無駄なエピソードがなく、妻と夫とのそれぞれの心の動き・動揺・怒り・哀しみが説得力を持って伝わってくる。

 

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