歓喜の歌 (2007)
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虐げられざる人々
2008/03/05
by
根無し葛
風の強い寒い一日、地下鉄を二つ乗り継いで映画館のある街へと出かけた。
映画を観たあと甘味処で「お汁粉」を食べるというプランに、不覚にも心誘われてしまったのだ。
さて、どの映画を観るか。
お汁粉との相性を考えると、どんな映画でも、というわけにはいかない。
相互に引き立てあうようであることが望ましい。
そこで以下のハードルを設定した。
(1)登場人物が誰ひとり殺されないこと。
(2)涙は無用。
(3)上映は2時間以内。疲労は最小限に。
上記諸条件を充足する映画を綿密に調べ上げたうえ、この映画を選択する。決め手はタイトル。なにしろ『歓喜の歌』だ。
結果は以下のとおり。
(1)についていえば、ほぼ満足のいくものだった。
暴力で命を奪われる登場人物はひとりもいない。正確にいえば、貴重な<命>がひとつだけ損なわれる。しかし、"彼"("彼女"だったかもしれない)の殉教が「みんなの幸せ」に果たした貢献は大きい。思い残すことはないだろう。気持ちのこもった供養もしてもらい、迷わず成仏できたに違いない。
(2)についてはすこし問題がある。
何度かほろりとしかかってしまった。しかし、「もうひと押し」の寸前でひらりと場面は転換する。もしこのとき、誰かが間近で自分の表情を観察していたら、「泣きたいのか笑いたいのかはっきりするように」と指摘されてしまったかもしれない。
それにしても、たとえ役立たずといわれても、でくのぼうと思われても、ただ精一杯に生きることが誰かに「喜び」や「希望」をもたらすことだってあるのだ。つくづくこころ励まされる思いがする。安易に涙など流している場合ではない。第一、お汁粉に「涙」は似合わない。
(3)については、上映時間は112分、まったく問題なし。
思いがけないトラブルに始まるてんやわんやから、クライマックスの合唱場面に至るまで、気分はほどよく心地よくゆるやかに昂揚し、エンディングロールが始まったときは「もう終わってしまう」ということに驚いてしまった。体内時計が完全に狂わされている。委細かまわずエンディングロールは進む。立ち去りがたい気持ちがわき立つ。めげない、踏まれてもへこたれないこの人たちと、もうすこし共に過ごしていたいような気持ちがくすぶる。ふと「誰かのために鐘を鳴らしたことなどあっただろうか」という思いがよぎる。でもまあ、難しいことはあとでゆっくり考えよう。
場所を甘味処に移し、つぶあんの「田舎しるこ」(お餅入り)を前にして、観たばかりの映画の感想を語り合った。反対側に置かれた「白玉クリームあんみつ」が美味そうで目移りする。隣の芝生は青い。かすかに後悔が走る。しかし何をいってもあとの祭りだ。
祭りといえば、「まつり縫いは陽気な縫い方だ」という映画の主人公の発言の真否をめぐり意見が衝突、しばし紛糾する。「お祭り・神事」に由来する「おめでたい」縫い方であるに違いない、と主張してみたが一笑に付された。形勢が好転しそうもないので「所詮、枝葉の問題にすぎない」と矛先をずらす。
ずらしついでに、先程来、気になっていた「白玉」をひとつ、ひょいと失敬する。
すこしひんやりした白玉の歯ごたえがこたえられない。この映画の記憶がよみがえるとき、たぶん歯にしみとおるこの甘みを一緒に思い出すだろう。それとも白玉を噛みしめるたびにこの映画を思い出すのかもしれない。四年に一度の閏年、なかにはこんな一日があってもいい。
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一遍のエッセイの様
2008/03/05 by
クラリス2号
根無し葛 さま
はじめまして。
すてきなレビューをありがとうございます。
映画ばかりか、その時のご様子まで目に浮かびそうで暖かくなりました。
これからも楽しみに拝見させていただきますね。
よろしくお願いします。 -
Re: 虐げられざる人々
2008/03/05 by
じょりちょこ
我が家の近くにも〔竹むら〕という甘味処があります。銀座からも地下鉄で3駅ですので、機会があれば是非。
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Re: 虐げられざる人々
2008/03/06 by
根無し葛
クラリス2号さん
こちらこそ、あたたかいコメント、ありがとうございます。
寒いときにはやっぱりほくほくする映画がいいなあと思います。
クラリス2号さんは『バリー・リンドン』のファンなんですね。
ぼくも以前、名画座で観て、最後の 「・・・善人も悪人も、いまはみな墓の下」みたいなテロップが流れたとき、座席に縫いつけられたように動けなくなったことを覚えています。「まつり縫い」されたわけではなかったと思うけど。
これからもよろしくお願いします。
じょりちょこさん
情報、ありがとうございます。
「竹むら」って、「神田やぶそば」のすぐ近くみたいですね。
映画を観て、やぶそばでせいろを食べて、そのあと老舗「竹むら」で栗ぜんざい・・
千鳥ヶ淵界隈でのお花見をセットにしたら、ささやかなるぜいたく三昧、という感じがします。まるで王侯気分・・ではなくて、王侯では絶対に味わえない気分を楽しめそう。
あとの問題は、どの映画を観るか、だけです。
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