母べえ
(2007)
»レビュー
最後の一言を聞け!
2008/01/28
by
taru
この映画の題名は「母べえ」であって、「父べえ」ではない。「父べえ」は治安維持法違反で獄中に囚われるが、それでも守らねばならないどういう思想の持主であったのかは明らかではない。権力との妥協を嫌う世間知らずの学者(風)の人物として登場するが、ドイツ文学者として、どのような思想の持主であったのかは映画では不明だ。ただ、あの時代に、残される妻と二人の子供の行く末よりも自分の思想を優先させた人はそんなに多くはなかったはずで、大抵の人は獄中に捕まっても、転向して出てきたのである。
「母べえ」は、子供二人を抱えて代用教員として生きてゆく訳だが、あの時代に教員として生徒の前に立つということは、生半可なことではなかったはずだ。君が代を歌う時に起立しなかった教員が首になる今の東京都どころの話ではないだろう。夫が獄中にある身としては周りの見る目も痛烈なものがあったはず。夫は自分の思想を貫いたかも知れぬが、その妻は妥協に妥協を重ねなければ生きて行けなかった筈なのだ。だからこの映画は、最後まで自分の主義主張を曲げなかった「父べえ」の生き方を単純によしとするものではないし、ましてや、夫を信じて生き、残された子供たちをりっぱにに育て上げた健気な女性の物語でもない。そして軍国主義に染め上げられたあの時代を批判するのが主旨だとしたら、余りにもワンパターンでありきたりの映画だと思う。
しかし、この映画をそんなありきたりの反戦映画から救っているのは、映画の最後、死ぬ間際に放つ「母べえ」の一言だ。あの一言で、この映画を凡百のありふれた反戦映画から救い、苛烈なまでの純愛映画として、時代を撃つことが出来ているのだと思う。
長年のサユリストとしても、本望の一作である。
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