ノーカントリー (2007) »レビュー

とりとめない不安

60点 2008/04/07 by アキラ

ノーカントリー

プロット自体は『ブラッドシンプル』路線なんだけど、ギャングの秩序にすら従わない現代的価値観って奴がやたらと深刻な時代背景としてペシミスティックに描き込まれています。まるで少年犯罪のニュースを見た偏った映像情報に免疫が足りない老人が「近頃の若い者は…」と嘆いてる内容を饒舌に物語化したかのような違和感が残るテーマ性です。昨年はドキュメントの巨匠ワイズマンが『州議会』で現代アメリカが抱える様々な問題に切り込んでいたが、そっちの方が問題意識が具体的かつ多面的。ここでも様々な問題の根底にはモラルの低下が見えているが、それだけが米国を腐らせつつあると断定したような描き方はしていません。それに対しこの作品ではモラルが失われた母国を嘆くってな一点突破で反論の余地を与えないような不気味さがあります。テーマ自体に対しては思わず卑下しても何も始まらないんだから冷静に考えようよと諭したくなります。

ただ、この話の構造はテーマに対しやたらと説得力があります。森の中で焚いている火を探す夢だの、シャツを渡す子供たちだの、殺人鬼のコインを使った俺様ルールだの、老婆が首輪をつけたまま逃げ出した事で発覚した事件記事だの、エピソードの散りばめ方としては見事にとりとめない不安を残す構造に成功しています。信じていたはずの秩序が崩壊して、どう考えても共感できないような秩序を押し付けられる。それが現代を生きる米国人の実感とリンクしたのだろうか。マクティアナンの『ラストアクションヒーロー』で、現実世界に出て来たシュワちゃんが靴を奪う為に人を殺す強盗を見て戸惑うシーンがあります。たかが靴の為に殺められる命。それが信じられない。地方の平和なコミュニティに生きる善良な市民にとって殺伐とした現代におけるモラル低下は幻想共有の崩壊。まるで映画の世界から現実に飛び出したような居心地の悪さなのでしょう。

 

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