ミスト (2007)
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パニック心理
2008/05/14
by
アキラ
「霧の中に何かがいる」の台詞を予告で聞いて『ザフォッグ』を意識したのかなと思っていたら冒頭で『遊星からの物体』のポスター。カーペンター映画へのオマージュがモロ。東側や核汚染などのインビジブルな時代の影に怯えた80年代の亡霊を引きずり出すかのようなゴシックホラー。ところが内容の方はカーペンター映画みたいに優しくはない。むしろ脚本力に終始圧倒されて、やっぱりダラボンって『ザフライ2』や『プライベートライアン』を脚色した人なんだなあと改めて関心させられました。パニック時の異常な行動をギミックにして怖がらせるのがやたらと上手い。実際に異常な状態に陥ると合理的判断も難しくなります。実際に被災地の取材をすると非常時にごく当たり前の判断すらできなくなった証言が飛び出します。それらはパニック心理や集団ヒステリー状態として定義付けされている物。これらを巧みに使った正に脚で集める地道な脚本術です。
まるでダルデンヌ兄弟を連想させるような正当な人間描写の上手さに思わず引き込まれました。傍から見ていると状況を充分に飲み込めずに戸惑う登場人物の行動に「さっさとシャター閉めろ」とか「虫が寄って来るんだから電気を消せ」とか当たり前のはずの事を注意したくなります。でも非日常的状況を飲み込んで合理的判断を下せるヒーローが被災者の中から登場するのはジャンル映画が植え付けた妄想でしかあり得ません。群像劇としての人物設定も恐怖と絶望によりいかに人間が変貌するかって所に説得力があります。余所者弁護士や電気技術やユダヤ教女や映画ポスター画家。それぞれが恐怖と絶望からいかにして過ちを犯すか。どの人間も異常な状況に追い込まれても最後まで日常という共有幻想から醒めない範囲で決断を下そうとします。誰が間違っているという訳ではなく、どう生きて来た人間かによって囚われる日常の延長という妄想の種類が違うのです。
旅立ちのシーンはまるでアンゲロプロス映画を思わせる荘厳さがあります。一部の冷静な判断による旅立ちって意味では『ポセイドンアドベンチャー』を連想させられる件だが必ずしも主人公が正しいとは限らない。もしかしたらユダヤ教女に従うべきだったのかもしれない。ここからポスター画家(主人公)の恐怖は絶望へと変貌し始めます。霧の中で目撃される信じがたい光景。道を横切る山よりも巨大な生物。人間など虫ケラほどにも眼中にない。まるで神の力を目撃してしまったかのような無力感。恐怖は畏敬の念へと変貌します。もうどうしようもない。そう思い込ませるのに充分な描写が続きます。息が止まるほどの閉塞感。異次元との穴なんて荒唐無稽なはずの事件が絶望的な恐怖として迫る。そして衝撃のクライマックス。圧倒されました。
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