スカイ・クロラ The Sky Crawlers (2008) »レビュー

キルドレの運命

90点 2008/09/07 by 未登録ユーザ マーでございます

スカイ・クロラ The Sky Crawlers

凄まじい迫力と振動、スピード感で雄弁に描かれた空戦は見事でした。非常に堪能できます。飛行機好きの友人に言わせると「満足した!」「実際の戦闘テクニックがきっちり描かれていた・・・急に減速して相手にわざと追い抜かせて後ろに付くとか・・・」ということ。ラストの主人公対「ティーチャー」の白熱したタイマン対決だけでも観る価値はあります。飛行機の離着陸のシーンも綿密に作られていて綺麗です。回転していたプロペラが止まるシーンが凄く好きですね。美しい。

しかし主人公らパイロット「キルドレ」が送る日常はぐるぐると同じところを回っており、妙にデジャヴ感というか、円環の中をいつまでも歩かされているような不気味さがありました。悲しみでもあるし、作中の主人公らがそのことに自覚し、乗り越えようと試みたものでもあります。

敵軍に基地が急襲されたり、大規模な作戦の展開があったり、同僚が戦死して欠けていったりと、ストーリー上の出来事はあるのですが、彼らキルドレの生きている日常のシーン、その視点、表情などはほとんど固定されていて変化がない。閉ざされた日常の中を延々生きている感じがします。

これは「十代半ばの子供の状態で成長を止め、戦死以外では死ぬことがない」キルドレに特徴的な視野かも知れません。あまり物語の設定や世界観に関わる重要な部分は直接の台詞で言わず、たっぷり雰囲気を映像で見せたあとにぽつり、ぽつりと、謎解きのようにヒントを喋らせるんです。なのでキルドレが何を思い、何を感じ、そもそもその世界ではキルドレがどういった存在として認識されているかはオブラートに包まれています。終盤でそれについての独白もありますが、詰め込もうと思えば幾らでも情報を言葉で羅列できたはず。そうしないからこそ、彼らキルドレの閉塞した、何も変わらない極端にクールな日常、ものの捉え方が哀しく伝わってきます。彼らの表情があまりにもプラスティックな面持ちなので余計にです。

が、他に出てくる「大人の人」たちも同じぐらい、特に抑揚を感じさせない生活っぷりで、特に「大人」と「キルドレ」の一線を画するものが感じ取りにくかったのは事実。

となると、そこで誰よりも一歩、二歩、円環する日常の中で踏み込んだところにいた人間として注目してしまうのが、女性司令官;草薙水素(クサナギ・スイト)です。
登場する大人たちが、意識してかどうかは明らかではないですが、あまり感情的にもならず、入れ替わり立ち代りで死んでもまた再生されて現われるキルドレたちに面していても、何かを語ることもなく、ただ淡々とやり過ごすだけ。
こうした淡々とした、そして繰り返される日常の円環については、押井守が監督を務めた「Avalon」にも描かれていた世界観と同じものを感じます。
その世界の中で草薙は、溢れ出そうな感情を眼鏡と制服の奥に隠しているように見えます。「殺してくれる?」と銃を手に主人公に迫るシーン、海沿いの崖道で車を飛ばすシーン、静かな横顔のままでワインを何杯もすいすいと飲むシーン。
円環して、何も変わらない日常、ひいては、運命そのもの。これらを乗り越えてゆくために「平和を維持するためのゲームとして管理された戦争」「絶対に勝てない敵という存在(ティーチャー)」を意識し、戦いを挑もうとする。その中で何も変わらないことも悟り、「私を撃って!」と銃を取り出す草薙。彼女は「非常に優れたパイロット」であったために戦いでは勝つことになり、「他のキルドレより少しだけ長く生きてしまった」ために、より多く、深いところまで知ってしまっています。

何事も知りすぎた子供というのはつらいもので、例えば並の社会人以上に精神的に成熟し、喜怒哀楽を経験してきた人間が、子供として延々と小学校に通うことを強いられたとしたら、非常にきついものがあると思うのです。
キルドレは小学校どころか戦争に駆り出されるパイロットで、人を殺して帰ってくるか殺されて死ぬかの二択しかない運命なわけで、しかもその戦争がそもそも何のための目的かというのも怪しい。更には、死んでもまた同じような心身を持ったキルドレが補完されて派遣されてくるという恐るべき社会。彼らがクローンにあたるのか、何らかの肉体修復が為されているのかは解りませんが、この強い円環を自らの手で破ろうとする意志を感じさせてくれた終盤はとても熱いものを感じました。

最後に言うとすれば、その熱い意志とか、キルドレと戦争を内包した社会の設定とか構造などについてはあまり語られず、キルドレ達の日常と表情、浮かび上がってくる内面が延々と描写されるのです。そのため「ルポルタージュ:キルドレと呼ばれた子供たち」という感じにも見えます。逆の意味で、非現実的な、設定上の架空世界の中のような感じは出せていたと思います。生と死が語られるわりに負傷者や死体は直接描写されませんし・・・。いやはや、面白かったです。

 

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