酔いどれ天使 (1948)
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混沌の中に秩序が萌芽するエンディング
2008/05/09
by
牧坂満
終戦直後の東京を舞台に、混沌とした世界に生きながらも、対照的な人生を歩む“やくざ”松永(三船敏郎)と“女学生”(久我美子)を描いた名作であり、後に東映が、医師に同じ志村喬を起用、鶴田浩二のやくざに反する生き方をする少女役に本間千代子をキャスティングした「暴力団」という映画を撮ったほど、衝撃的な映画でした。
戦後、社会に順応出来ずにアプレゲール(自暴自棄的傾向)に陥る者が多かったのは、同じ黒澤作品の「野良犬」や、深作欣二監督の「仁義なき戦い」でも描かれていますが、黒澤明監督は、やくざ=暴力・否定のメインテーマを重要視、暴力に訴える人間の末路が如何に惨めであるかを描いています。映画画面の中心に居座るような、どぶ池には油が浮き、メタンガスが発生し、生活ごみが投棄されており、画面を見ているだけで、腐臭すら感じさせられます。
地廻りの顔役だったやくざの松永は肺病を病んで、志村喬扮する飲んだくれの医師の真田に“お前の肺はこの沼みてえなもんだ”と忠告されるのです。そのどぶ池には水死体のように膨張した人形が廃棄されていて、うらぶれた松永の心象風景を見事に表現しています。
バイオレンスとニヒリズムの魅力をギラギラした野性味で演じる三船敏郎の強烈な個性が、主役である志村喬を圧倒していますが、仁義を信じるやくざ松永に対して、“仁義なんか悪党仲間の安全保障みいたいなもんだ!要は金だ!”と言い聞かせる台詞に、人間観察・批判の凄味すら感じさせ、自嘲するように哀愁を漂わせて笑う酔いどれ医師を演じている志村喬も見事な存在感といえるでしょう。
「野良犬」でも同じ復員兵でありながら、一方は刑事として、また一方は犯罪者に落ちていく二人を対称的に描いていましたが、「酔いどれ天使」でも、同じ肺病に罹患しながらも真田医師の処方箋を遵守して、病気を克服していく女学生(久我美子)の姿が、混沌の中に秩序が萌芽する意味を表現しており見事なシーンです。本当に強い人間はどちらか!といった黒澤イズムの倫理観が溢れる名画です。
そして、黒澤イズムと言っていい人間性の回復。ラストシーンで女給役の千石規子がみせた真心や、真田医師と女学生との邂逅には、ヒューマニズムと未来への希望を託して力強く生きていこうとするダイナミズムが感じられるのです。…黒澤明・没後10年、若い世代にこそ観て頂きたい日本映画です。
【国立近代フィルムセンター】劇場鑑賞
【銀座並木座】劇場鑑賞
【DVD・マイコレクション】鑑賞
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好敵手への影響と黒澤のケジメ
2008/05/08 by
夢寝由来
>後に東映が、医師に同じ志村喬を起用、鶴田浩二のやくざに反する生き方をする少女役に本間千代子をキャスティングした「暴力団」という映画を撮ったほど、
やはりそうですか!
鶴田浩二が高田浩吉主催の劇団員から映画界に身を投じるきっかけが本作による影響だからだと言われています。
鶴田は“三船に追いつけ追い越せ”を目標にしていたとも言われ松竹を離れた理由の一つに東宝で三船との共演だったそうで、計10本で実現しています。
確かに三船のハードに対して鶴田のクールな味は相乗効果になっています。
鶴田は結局、黒澤のお気に入り三船を追い越せず東映に移籍しますが、もし東宝に留まっていたら「用心棒」の卯之介役が鶴田だったかもしれません。そうなっていたら仲代達矢の運命も東映任侠映画も変わっていたでしょうが…。
黒澤明は本作で(三船がカッコ良過ぎて)ヤクザの惨めさを充分に描けなかったケジメを13年後の「用心棒」でやってのけたのだと思います。 -
三船敏郎と鶴田浩二
2008/05/09 by
牧坂満
「夢寝由来さん」おはようございます。映画「暴力団」は小学校5年生の時期に叔父さんに連れて行ってもらった作品なのですが、多感な時期に鑑賞したので結構覚えているのです。私の父親に聞くと、「酔いどれ天使」での三船敏郎が演じたヤクザがあまりにも鮮烈だったので、東映映画が見事にこれをパクッたようです。但し、「暴力団」は東映でも二流の監督だった小沢茂弘なので、「酔いどれ天使」には遙かに及ばずの返り討ちに終わっています。
映画「暴力団」は再度鑑賞する機会があったら投稿してみようと思っていますが、鶴田浩二扮するヤクザの見た目のカッコよさに憧れる子供たちが大勢登場することに眉を顰めた、志村喬医師がカッコ悪く死んでくれと要請する場面にあります。最初は反発する鶴田でしたが、警察に包囲される大団円で、子供たちの監視を察して、志村喬医師の言葉を実行するのです。
アンチヒーロー像としては「酔いどれ天使」の三船ヤクザより、感情移入出来る鶴田ヤクザでした。
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