ラストエンペラー (1987) »レビュー

マルキシズムとデカダンスの感性の矛盾

90点 2008/08/26 by 牧坂満

 清朝最後の皇帝、宣統帝溥儀は正常な生活を求めてナチズムに屈服する「暗殺の森」の主人公を豪華版バージョンアップされた映画だと思います。ベルナルド・ベルトリッチ監督は自分自身のマルキシズムとデカダンスの感性の矛盾にいつも引き裂かれていますが、またもや革命前夜の華やかさに心奪われたのです。

 豊饒なオレンジ色の幼少期から牢獄につながれた荒涼たる青灰色の時代へと、色褪せてゆく虹のスペクトルのように溥儀の一生を描いた撮影は「地獄の黙示録」のヴィットリオ・ストラーロであり、色が飽和して、光を遮断する紫禁城を描写しているところに彼の才能が最も生かされているのです。ストラーロは色彩が充満した華麗なる紫禁城を感覚が萎える場所として表現。戦犯として逮捕された溥儀が全てを自白することによって更生するというエピソードはシアンを基調とした暗い映像で造形していますが、それが本当の自由とは違っていることを暗示していて秀逸でした。

 半世紀以上の歴史を一本の映画に収めきることは大変な作業です。ベルトリッチ監督の自分勝手な解釈や省略を有識者たちは批難するでしょうが、ベルトリッチ監督は歴史学の教授ではありません。観客は溥儀のプリズナーとしての、世間から隔絶された目を通して、激動の時代の目撃者となるのです。紫禁城の人気のない玉座で、コオロギだけが生きていたラストシーン。ベルナルド・ベルトリッチ監督こそが、映画叙事詩の歴史における“ラストエンペラー”なのかもしれません。

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