天国と地獄 (1963) »レビュー

強い人間と弱い人間

80点 2008/05/16 by 星空のマリオネット

黒澤監督らしい、さすがに手抜かりのない緊密な映画です。
町を一望できる高台にある権藤邸の広間。主(あるじ)は三船敏郎演じる権藤常務。その広間に登場し交錯する役者たちの台詞と動きは、まさに舞台劇のそれのようです。闘争と葛藤で押し潰されそうな重苦しい空気に支配される舞台。

そんな時、下界を臨むベランダの窓が大きく開けられると、港町の遠く心地よい喧騒が一陣の風となって舞台の重苦しい空気を吹き払ってくれます。会社内という閉ざされた空間の矮小さを思い知らされるとともに、観客の心も洗われる。
この辺の転換が実に見事。映画ならでは演出です。八方ふさがりの閉塞感が著しい前半にあって、息継ぎのようなアクセントになっています。

中盤、舞台は一転、屋外の広い世界に変わります。
当時、あこがれの特急電車だった東海道線「こだま号」の疾走シーン。
この列車内でのスピード感や迫力は特筆もの。
一方、刑事たちの会議の場面も自然だし、主任刑事役の仲代達矢の芝居も抑制が効いて穏やか。最近のドラマとは時代の違いを感じさせるところです。
(テレビドラマの新・旧「白い巨塔」の違いを想い起こさせます。)

ただ、「天国」と「地獄」というこの映画の肝の部分についての説得力は、いまひとつであったように思います。少し無理があるような。
黒澤監督は、強い人間が地獄から這い上がってこようとする姿を共感をもって描く一方、弱い人間が本当の地獄に堕ちる姿を狂った動物であるかのように描いていきます。
彼自身が持つ「正義」への信念の表れでしょうか。

 

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