六月の蛇 (2002)
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降りつけよ雨、私を押し流せ
2003/05/29
by
おぜ
塚本信者として育った経歴を持たぬ私。かくてベネチアからの風に乗った便りもやり過ごし、ほとんど何の情報も耳に入れぬまま予告が終わった途端ガガガッとスタンダードサイズに縮んでいくのに驚かされたスクリーンの前に座っていることになりました。
モノトーンの画面が静かに語りだす映像は、素材からいってもチマチマと半端に前衛的な窪みに落ち込んでしまいかねないものかと勝手な危惧をしていた、の、に…。美的静的なはずのその世界が、巻頭たちまちエネルギッシュに疾駆奔走し始め、ボーっと見ていた間抜けな観客は、緻密な脚本・考え抜かれた構成に簡単に体ごとすくわれてしまいました。何の突っ込みを入れる必要もない、羊水の如き安心感を与えてくれる計算された画像が、しかし洪水の如く押し寄せてくる。渋谷シネアミューズの空間も自分の位置取りも意識から追い出され、怒涛の中に自分がただ押し流されていく至福の時間!
とにかく面白く、そしてひたすらカッコ良い。…まるでアクションを見たような言い草で申し訳ないのですが、そういうものに沸いたり踊ったりする血や肉を持った身が正直に感じてしまった感想なので堪忍してくれ、と言いたくなるのです。だからクライマックスが近づくにつれ、かつて小林信彦が言ったアクション映画の法則が頭に蘇って来たものでした。「、こうした人間が入り乱れる劇は、七人の侍の墓や燃え行くローズバットの橇のようにその『戦い』が収斂していく先をラストで見せねばならない(←記憶のみ。いい加減)」 そして結末へ…。いや、こう来るとは思わなかった! 参った。やっぱり最後まで面白かった。塚本監督がこれまで追ってきたというテーマは、もしかすると時代がもう少し動いた段階でいろいろ違和感を抱くかもしれない部分のあるものかもしれないものだと思っているので、今という時期にこの作品を見られたことに心底感謝したいと思っています。
さて減点10は「ベースになるのがベタなオタクの妄想に過ぎん」「名人の墨絵みたいで、達者なのは分かるが脂っ気がなさすぎる」とかいった作品の志向性に関するものではなくて、ラスト、作品全体を象徴する「モノ」が消えていったことへのささやかな不満です。前半の傘の小道具としての扱いが惚れ惚れするものだっただけに(スタンガンの扱いには声上げて笑ってしまいました。最高)、後半の小道具がピン穴カメラというのはちょっとゴージャスさが欲しかった。神足裕司の横っ腹の肉じゃねえ、と思いつつ、しかしこの作品は明らかにそうした「モノじゃなく肉体」というのが狙いどころの一つでもあるのですよね。だからこの意見はただのズレた無いものねだりです。
とにかく同じ時代を生きていることを嬉しく思う小さくても熱き職人芸の極致。振り幅が大きいようで実は繊細な演技の黒沢あすか、重くなりそうなシーンを軽やかに笑わせてくれたコウタリン(最初に食器洗いで仕事のストレスを解消するソニーコンピュータの取締役を思い出して笑ってしまいました)、声の演技だけでさらってしまうのが憎たらしい役者・塚本、会場で流れていたのを聞いた観客が「ゴジラみたいだ」と言った音楽を書いてくれたチューさん始めみんなみんな、素敵な時間を味わわせてくれて有難う。
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