渇き (1957) »レビュー

こんな世界なら要らない!

100点 2005/10/04 by アキラ

とあるフランスの批評家はグルダット映画をドストエフスキー+チャップリンと評したらしい。
確かにこの作品の恭しき娼婦は『罪と罰』で、表現は明らかに『独裁者』を模倣しています。
頭部を揉むマッサージ師の場面はハンガリー舞曲に合わせた床屋のシーンを思い起こします。
「こんな世界なら要らない!世界を回してしまえ」という強烈なカタルシス部分に表現される
"こんな世界"とは、金の為なら兄弟ですら売ってしまう人の情が希薄な渇いた現代社会の事。
チャップリンが表現し続けたスピードに支配された冷たい資本社会と重なる部分があります。
母と娼婦とマッサージ師を除く全ての人物が『55年夫妻』の叔母の様に主人公を追い詰める。
非人間的に描かれる世間の風当り。それは作家としては、きわめて切迫した状況なのだろう。

噂に違わぬ傑作。圧倒された。内容も見事ながらに、映像表現としての描写力にもやられた。
JMストローブはモンタージュを真に体得したのはエイゼイシタインではなくチャップリンだ
と語っていたが、この作品には両方の力が生きている。チャップリンのように芝居の呼吸を
統一して映像的に自然な流れを作る事で被写体内部から沸き立つ力と、エイゼイシタインの
ように絵自体を挑発的に並べる事でその衝撃度を増す力です。バルコニーのシーンひとつを
見ても、単純な寄り引きのカット繋ぎで演技力と絵的な力が圧倒的な力を画面に与えてます。
フォトジェニックな力量は冒頭の睡蓮から花に戯れる蜂のショットからしても半端じゃない。
それでいてこの貧しい詩人のドラマに自然に引き込んで渇望を体感させる。こんな凄い力を
持った作家がボンベイにいたとは驚いた。マサラお約束の歌と踊りはあまり好きではないが
グルダットの語り口の中では力強く響いていました。見事に描き出された真に迫る心の渇き。
それは拝金主義に朽ちてゆく世界を敵に回した作家の強烈な孤独の叫びだったのかもしれない。

 

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