用心棒 (1961) »レビュー

痛快無類の面白さのハードボイルド時代劇

100点 2008/05/13 by 牧坂満

 初めてこの映画を観賞したのは中学校1年生の頃に学校の講堂で実施された“教育課外授業”でした。勿論、メインは文部省推薦の教育映画でしたが、そちらは完全に忘却の彼方になってしまっています。最近では4月19日のBSハイビジョンでの鑑賞となったばかりなので、かなり鮮明に覚えています。…映画の原案はハードボイルド小説の「血の収穫」であり、それを黒澤明と菊島隆三が時代劇として見事に脚本化しています。ダシール・ハメットの原作はローリングトゥエンティと呼ばれた禁酒法時代の1920年代から30年代初めにかけて上梓されていますが、それはアメリカ西部の西海岸に大都市が成立した時代でもあります。

 国内外の移住民が作り上げた大都市は、ただ見知らぬ同士の巨大な集合体であり、未だ法治国家としての治安は完全なものではありませんでした。“正義は悪の中から発生する”という格言通りに、力を持った正義漢が小さなコミュニティの中で悪を駆逐するのが精一杯だと言っても過言ではないでしょう。

 映画は舞台を日本の地方宿場町に設定して、ハードボイルドな暴力描写をふんだんに盛り込んで、東映チャンバラ映画を完全にノックアウトしてしまっています。東映チャンバラ映画の中にも傑作は多く存在しますが、それは歌舞伎と日本舞踊をミックスした様式美であり、白塗り化粧した俳優が絢爛豪華な衣装を身に纏った剣劇でした。
 
 それにアンチテーゼを投げかけるように、偉大な娯楽映画作家の資質を持ちながら長らくテーマ主義に呪縛されていた黒澤明監督が持てる才能の全てをエンターテイメントに注ぎ込んだのが、この作品です。ゴーストタウンのようにデフォルメされた宿場町のオープンセットの見事さは言うまでもなく、砂塵舞い上がる中での集団対立劇をローアングルで撮影したカメラワークはマルチカメラによる完璧さ、リアリティーを重要視した殺陣の迫力は非情で殺気がみなぎる世界なのですが、加東大介らが巧みに演じるコミカルな笑いもちりばめられていて、娯楽映画として痛快無類の面白さは何度観ても色褪せることはありません。

 セルジオ・レオーネ監督によるイタリア製西部劇の傑作「荒野の用心棒」や名実共にサム・ペキンパー監督の後継者であるウォルター・ヒル監督による「ラストマン・スタンディング」でリメイクされたのは当然でしょうが、後のアメリカン・ニューシネマにも大きな影響を与えた黒澤明監督の世界を堪能してみることをお薦めします。

 【長洲中学校・課外授業】劇場鑑賞
 【国立近代フィルムセンター】劇場鑑賞
 【銀座並木座】劇場鑑賞
 【ビデオ・マイコレクション】鑑賞
 【BS・ハイビジョン】鑑賞

 

8人がこのレビューに共感したと評価しています。
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  • 風が吹いたら棺屋(おけや)が儲かる!

    2008/04/21 by 夢寝由来

    牧坂さん、
    期待通り本作に投稿されましたね。
    本作の誕生には様々な説があります。
    @ダシール・ハメット原作のプロット借用
    A打倒!東映時代劇王国
    B当時のアメリカvsソ連の緊張
    @とAは信憑性があるが、Bだけはノンポリの私にはインテリさんたちのこじつけに思えます。
    私は1978年秋のリバイバル三本立て(用心棒+椿三十郎+隠し砦の三悪人)を見てから時代劇に対する観賞眼が一変し東映時代劇や大河ドラマを含むTV時代劇が正視出来なくなりました。
    最初はひたすら殺陣の魅力に惹かれましたが次第に三十郎というキャラクターに移り殺陣はむしろ(不謹慎かもしれませんが)オマケに感じました。これは「赤ひげ」の中盤クライマックスの喧嘩殺法を黒澤明自身が“オマケだよ”と言った事に重なります。
    本作は、すきま風だらけの東映オールスター時代劇への警鐘か皮肉とも取れますが
    (東映は全て正義の集団vs悪の集団でした)
    最近ウィリアム・ワイラーの「大いなる西部」へのアンチテーゼにも思えます。
    “黒澤さんはあまり自分の参考にならない日本映画を見ない人だ”という側近の証言もありますから。
    「大いなる西部」の主人公ジム・マッケイはやはり西部では部外者であり対立を続ける二つの組織を和解させようと奔走しますが本作の三十郎は二つの組織を共倒れさせようと知恵を絞りますから…。
    本作について語るとキリが無いのでこの辺で。

  • 黒澤明監督作品を愛する全ての人々へ

    2008/04/22 by 牧坂満

     黒澤明監督作品を批評するときは、記憶だけに頼らず見終わった瞬間の印象を大事にしています。夢寝由来さんのトークの中に登場する、アメリカ製正統派西部劇の「西部開拓史」や「ワーロック」もビデオ(スタンダードサイズ)やBSのノーカット放送を観賞した直後にまとめましたので、長文化してしまったことは否めませんが、自分自身では満足しています。

     よって、「ヴェラクルス」や「大いなる西部」の批評も先送りの状態で待機している状態です。また、高校生時代に好きだった、アンドリュー・V・マクラゲレン監督の西部劇はDVDもビデオも所持していないためにこちらも同じような状態になっています。

     BS・NHKが“黒澤明・特集”を組んでくれたのを切っ掛けに、黒澤明監督作品を論じ合えたら幸甚に思います。

  • Re: 痛快無類の面白さのハードボイルド時代劇

    2008/05/03 by メイプルタウン

    BS・NHKが“黒澤明・特集”を組んでくれたのを切っ掛けに、黒澤明監督作品を論じ合えたら幸甚に思います。…「羅生門」や「用心棒」は鑑賞しました。今夜は「椿三十郎」ですよね。森田芳光監督のリメイク版を先に鑑賞しているので、アベコベになってしまいましたが、エンジョイします。

  • 三十郎ファン

    2008/05/13 by 牧坂満

     「夢寝由来さん」、「メイプルタウンさん」、三十郎の魅力を女性らしい観点から解説された「バナバナ2さん」の「椿三十郎」のレビューは一種のカルチャーショックを受けたようで新鮮でした。

     三十郎のイメージを敬遠してしまう女性が大半の中にあって、「バナバナ2さん」の三十郎評価は私たちにとっての強力な用心棒でありますのでご注目下さい。

  • 「用心棒」と「椿三十郎」はアスピリンの代替品

    2008/05/13 by 夢寝由来

    >三十郎のイメージを敬遠してしまう女性が大半の中にあって

    牧坂さん、「用心棒」は確かに女性客には酷な作品かもしれません。
    配給収入は「用心棒」が3億5千万円に対して「椿三十郎」が4億5千万円で明らかに後編の方が上回っています。従って観客層も後編は前編である本作に比べて女性客をも動員したのではないか?と推察されます。
    (今の金額に換算するとおよそ20倍です。)
    因みに私は、先週末に飲みすぎによる頭痛を抑えるために≪三十郎二部作≫を見たら頭痛は即治まったのですが3時間半笑いっぱなしで翌日は声が枯れていました。

  • Re: 痛快無類の面白さのハードボイルド時代劇

    2008/05/18 by メイプルタウン

    「夢寝由来さん」そして「牧坂満さん」横レス失礼致します。…三十郎映画にアスピリン効果があるとは初耳です。でも笑うことは免疫効果の向上にも繋がり、長期入院者にも笑いの効果による臨床実験で効果ありの成果が発表されている位ですから、「夢寝由来さん」の頭痛を沈静化させる効果も医学的にみても正しいのでしょう。

    NHKの衛星放送で黒澤作品が公開されてから、三十郎(若葉マーク)ファンが沢山登場しています。勿論、かく言う私もその一人ですが、「用心棒」でドンビキした女性(私と「バナバナ2さん」は大丈夫)も「椿三十郎」では親近感を覚えたと思います。

    本当に不滅の映画ってあるんですよね。

  • アスピリン効果は…?

    2008/05/18 by 夢寝由来

    >長期入院者にも笑いの効果による臨床実験で効果ありの成果が発表…

    メイプルタウンさん、
    もう10年位前にTV「特命リサーチ200X」でも紹介していました。重度のウツ病を併発し回復の見込み希薄な患者に医師の英断でサイレント喜劇を見せ続けて笑い機能を回復し退院・社会復帰したという報告があったそうです。
    三十郎二部作によるアスピリン効果(笑いによる回復)は酔った私には絶大でした。
    私はあの時、二日酔いを抑えようと三十郎二部作が無性に見たくなったのです。というには最近「隠し砦の三悪人」のリメイク版ポスターを見た長女20歳が何故かオリジナル版が見たいと言い出しDVDを見た結果
    “全くダレない緊迫感と欲張りで間抜けで喧嘩ばっかりの百姓二人とユーモア満載の展開に一気に見る事が出来た。姫が下手な演技で三船さんはチョッと恐かったけど白黒画面は全然平気だよ”
    と言っていたのが心に掛かっていたからです。
    TVゲーム等のケバケバしいCG色彩画像に食傷気味だったからこそ白黒画面が新鮮に感じたのかも知れません。
    ※派手な色彩画面は飲み過ぎの時には却って頭痛を憎悪させるリスクを有するかもしれません。

  • Re: 痛快無類の面白さのハードボイルド時代劇

    2008/05/18 by メイプルタウン

    「夢寝由来さん」のお嬢さんが、映画好きの父としてブログを制作していますね。私の両親は昔々は映画ファンだったようですが、最近は殆ど映画を観ていないのです。
    「隠し砦の三悪人」に出演されていた上原美佐は自分には女優の資質がないといって引退したのは本作品での演技で分かりますが、黒沢監督作品に出演している女優は、本物の気品がありますね。

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