用心棒 (1961)
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「時代」を超えた時代劇
2008/05/19
by
ホワイトファング
当時にあっても異色な時代劇であったんだろう。いま観ても十分に異色だ。
空っ風の吹く四つ辻。両脇に、いがみあうやくざの陣営があり、中央に緩衝地帯としての火の見櫓と居酒屋がある。シンメトリーな構造。宿場全体が開かれた密室のようだ。その息苦しさを空っ風が吹き払う。この火の見櫓を支点とする一本の直線上を、ひとりの得体の知れない浪人が行き来する。浪人の目的は何なのか。金が目当てなのか、やくざが嫌いで宿場から一掃したいのか。どちらともはっきりわからないまま、主人公は、陣営の一方から一方へと行ったり来たり。中央に位置する居酒屋は、「一方のやくざから浴びる悪の臭い」を洗い落とす浄化装置だ。
この映画のユニークさは、物語が一方向へのベクトル(正→悪)で構成されているのではなく、この直線上の行ったり来たりする、双方向性の構造(悪→←正→←悪)にあるのではないか。単一の方向へ一気呵成に向かう単純明快さを犠牲にして、不安定な構造から来るサスペンドな感じが全体に漂う。この感覚が主人公の縹渺としたキャラクターと渾然化したところにこの映画の魅力のすべてがある。
主人公のキャラクターの異色さ。権謀術数を蹴散らし、快刀乱麻を断つのがわれわれが抱くもっとも「普通の」、本来的なヒーロー像とすれば、この映画の"桑畑三十郎"はまったく違っている。腕も立つが、自ら権謀術数を駆使してはばからない。飄然としていながら打算的でもある。こういう複雑微妙なキャラクター造型に、きわどいところで成功しているように思えるのだ。なぜ「きわどい」というかといえば、たとえば、人質とされた司葉子を助けるため、不意討ち的に六人のやくざを切り倒す場面がある。圧倒的に腕の立つはずの主人公による、尋常な立会いではない「不意討ち」による奇襲攻撃。しかし、ここでは、主人公の体の動きや剣のさばきに目を奪われこそすれ、不意討ちというもののマイナスイメージが頭をもたげることはない。人質救出の目的、ということに対して脚本上の配慮が行き届いているからだ。この人質は、「どうあっても」助け出されなければならない。観ていてそう納得できてしまう。
さらに、ラストの斬り合いのシーンが注目される。ひとり背中を見せて逃げるちんぴらやくざ。実は百姓である。主人公は刀を振り上げるが、思いとどまる。思いとどまるための伏線が映画の冒頭に用意されていたことをわれわれは思い出す。
このような脚本上の工夫の数々があるため、われわれは主人公の性格を受け容れることに抵抗を感じない。ニヒルというわけではなく、非情にも徹しきれない、達観しているようでいて充分に処世の術をわきまえ、人情の機微にも通じている。複雑色をした憎めないヒーロー。このように異色な人物造型が、娯楽映画の枠の中できちんと成り立つ名人芸。その精妙な映像表現を目の当たりする興奮は、ある意味でもっとも幸福な映画的興奮なのではないか。
4人がこのレビューに共感したと評価しています。
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「時代」を超えた時代劇
2008/05/19 by
牧坂満
「ホワイトファングさん」初めまして。三十郎の剣サバキ以上の筆サバキに、しばし見とれてしまいました。
主人公のキャラクターは後のアクション映画にも多く流用されましたが、「荒野の用心棒」、「夕陽のガンマン」、「続・夕陽のガンマン/地獄の決闘」のヒーロー像には多くの女性たちからNGが発せられました。清濁併せのむキャラより、絶対正義漢が好まれる傾向があるのは仕方ないのでしょう。
主人公、三十郎の不意打ちのマイナスイメージは仰る通りです。どうしても助けたい家族のためには仕事を短時間で完全に仕上げなければならない制約事項があります。更には、掠め取った小判を全部与えてしまう三十郎ですが、それは地面に投げてしまうのも三十郎の照れ隠しの性格を上手く表現していると思います。
女性の視点を意識したのか、黒澤監督は続編とも言うべき「椿三十郎」では三十郎のキャラを若干イジッテいます。「ホワイトファングさん」の「椿三十郎」のレビューも読んでみたくなりました。どうぞ、宜しくお願い致します。 -
火の見櫓の存在価値
2008/05/19 by
夢寝由来
>両脇に、いがみあうやくざの陣営があり、中央に緩衝地帯としての火の見櫓と居酒屋がある。
ホワイトファングさん、はじめまして
本作で≪火の見や櫓≫という見落とされがちなキーワードを見たのは珍しいです。
シネマスコープの横長画面サイズを好んだ黒澤明は「羅生門」以来11年ぶりに撮影監督にあえて大映専属の宮川一夫を(五社協定と喧嘩してまで)起用しました。
シネスコは多くの場合左右の広がりばかり強調した挙句、上下の圧迫感を感じさせるリスクがあります。
しかし本作は、シネスコ画面の左右の開放感を生かした画面構成と望遠レンズを用いた遠近感更に上下の広がりまで出すという欲張った要求を満たしています。
既にヤクザの出入り前に用心棒・本間先生が“裏切り御免”のセルフパロディで走って逃げるシーンで画面の下から上に向って走るシーンがありましたが、二つの組織の喧嘩が始まった時に三十郎が火の見櫓に登るシーンをワンショットで撮っています。勿論カメラは左右に上下に動きますが編集はされてませんね。
三十郎は火の見櫓から下の左と右から展開されるヤクザの喧嘩を高みの見物します。
アホなヤクザを見下しているという意味と左右の開放感及び上下の広がりを同時にカメラに収めた名場面ですね。
名カメラマンとの見事なコラボでワイドスクリーンを使いこなした監督としても黒澤は世界屈指の巨匠ですね。 -
Re: 「時代」を超えた時代劇
2008/05/22 by
ホワイトファング
>夢寝由来さん、はじめまして。
四つ辻と火の見櫓を見て、なんとなく「やじろべえ」を連想していました。
「シネマスコープ」という観点はまったく考えもしなかったですね。ワイドスクリーンというのは両刃の刃みたいなところがあるんだろうと思います。両サイドの処理をもてあましている映画というのは「だったらやめときゃいいのに」なんて言いたくなります。逆に、意識的、効果的に活用しきった映画というのもあるわけで、この映画もそういう作品なんですね。テレビ鑑賞だと、そのあたりまでなかなか気がつきません。こういうさりげないフォローをいただくと、とても参考になります。なるほどなあ、と膝を叩いてしまいました。ありがとうございます。
牧坂満さん、はじめまして。
まだレビューを3つしか書いていないのに、お気に入り登録いただいたことに、まずはお礼申し上げます。
で、『椿三十郎』のレビュー、投稿しました。
内容はあのとおりなんだけど、実は最初、もっともっと言いたい放題、かなり身も蓋もないような書き方をしてしまっていました。本作と比べてどうにも、という気持ちが強くて。ただ、牧坂満さんのレビューを拝見すると、フルマーク採点をされています。書かれた内容については、ほとんど異論ありません。ただ一点を除いては。その一点に僕はこだわってしまったので、当初、書いたものは、結果的に心ならずも「けんかを売っている」と取られかねない内容でした。で、さすがにまずいかな〜と思って、言葉遣いなど、大幅に書き直しました。あれでも、元の文章から比べると、かなりお行儀の良いものになっています。でも、どこか日和ったような後味の悪さを残してしまいました。まあ、冷静に考えると僕もその「一点」にこだわりすぎかな、って思わないでもないんだけど、こんなことはいまさら冷静に考えたってはじまりません。最初に感じたことを大切にしたいです。
牧坂満さんのレビューは、今回、かなり読ませてもらいました。わずかな期間に300を超える投稿、というエネルギーにまずびっくりです。とにかくびっくり。読んだことで観てみようかなと思わせられる映画もあるし、豊富な情報も参考になります。ただ、率直に言って、いくつか、「一言いわせてもらいたい」というようなレビューもありました。いまはそんな気分ではないけど、いつか、機会があれば、堂々と一言いわせてもらうつもりです。
ただですね、その際に、今回、『椿三十郎』のレビューを書くときのような「書きにくさ」は感じたくないです。お気に入りに登録していただいている、というだけで、意外にも余計なプレッシャーを感じてしまう。ほんと、けっこう僕は気が小さいんですよね〜。牧坂満さんにしても、要らない気を使われることは本意ではないんじゃないかと思います。僕も文章の推敲だの書き直しだのをしたりせず、思ったまま、好き放題を勢いで書いてしまいたいし。
ということで、お気に入り登録、削除してしまってください。新入りのくせに態度が大きい、と思われても仕方ないです。新入りの目から見ると、投稿の量といい内容といい、牧坂満さんはこのサイトで間違いなくメジャーな方です。そういうメジャーな存在に対しては、フリーハンドの状態でいたい。言いたいことがあれば気兼ねなく言えるように。で、いつかそのときには、遠慮なく噛みつかせていただきます。胸をお貸りするつもりで、かつ気迫を込めて噛みつきます。お手柔らかに、とはいいません。その際には存分にお願いします。どちらにしても、いろんな意味で楽しいやりとりができたらいいですね。 -
「時代」を超えた時代劇
2008/05/22 by
牧坂満
「ホワイトファニング」さん、私ごときの侏儒の言葉を羅列したレビューに目を通して頂きまして痛み入ります。キーボードに向かい叩き続けた日々もありましたが、ある日ネタバレコーナーにある「カイタカケン」さんの文章「ノーカントリー」と「パンズラビリンス」に目にしてから、粗製乱造してきた自分のレビューを振り返り、文章の書き方に注意するようになりました。
また「lp」さんから、洋画「理由」の私のレビューを読んで、「理由」を見たくなりましたと返信投稿を頂いてから、直近で鑑賞した映画を記憶新たな内にレビューを書くことに改めたのです。よって、最近は一日1本のペースになっています。詳細な返信投稿は「ホワイトファニング」さんの「椿三十郎」のレビューにお送りします。 -
誰が為に鐘は鳴る
2008/05/22 by
夢寝由来
>四つ辻と火の見櫓を見て、なんとなく「やじろべえ」を連想していました。
ホワイトファングさん、
そのひらめきがスゴい。
私はその後、卯之助が始めて登場したシーンで半鐘を鳴らしこれが三十郎との対決の伏線であると思い、同時に≪汝の弔いの為に鳴る鐘≫を連想しました。
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