大いなる西部 (1958)
»レビュー
一大西部劇叙事詩を御堪能下さい
2008/05/08
by
牧坂満
巨匠ウィリアム・ワイラーによるアメリカ製正統派西部劇の名作であり、ジョン・フォードやハワード・ホークスといった巨匠とは若干色合いが異なるドラマチックな西部劇として仕上がっています。それは、新天地アメリカ大陸の西部を開拓した人々の西部思想とヨーロッパからの入植時代の伝統を受け継いでいる東部思想の相克を描いているのです。
冒頭から西部の大平原と群青の蒼空に圧倒されます。そこに東部エスタブリシュメントの紳士ジェームズ(グレゴリー・ペック)が登場して、暴力による解決方法にアンチテーゼを示して行くのです。アメリカの正義漢を代弁してきたグレゴリー・ペックの魅力を活かした映画であり、恩義あるボスへの忠誠心から善と悪の間(はざま)で相克する牧童頭(チャールトン・ヘストン)も見事な存在感を示しています。若い人々にとって、二人の共演の凄さを簡単に説明しますと、「タワーリングインフェルノ」で共演した、ポール・ニューマンとスティーブ・マックイーン以上の衝撃度なのです。
「西部開拓史」で艱難辛苦を体験しながら、それを乗り越えて家庭を築き上げた女性を演じた、キャロル・ベイカーが西部思想の“目には目を、歯には歯を”から脱却することが出来ずに、ジェームズの紳士的態度に苛立ちを覚えるシーンこそがドラマに深みを与えているのです。彼女のアグレッシブな言動からジェームズの心が離れていく様子は映画「シービスケット」でも描かれている対照的な東部思想と西部思想の違いによるのです。
西部の荒くれ男の思想を代弁するチャック・コナーズ扮するカウボーイも興味深いキャラクターですが、彼の父親ヘネシーを演じたバール・アイブスが粗野な風貌にもかかわらず正々堂々としたアメリカンタフガイの条件にジェントルマンを挙げていることが素晴らしいのです。それはイギリス紳士達のシンボルであった決闘用の短銃を“ジェントルマン・ウエポン”と呼び、短銃に感動する場面にあります。決闘を決意した二人を呼ぶ際に発する言葉“フォローミー、ジェントルメン”粗野に見えた男こそがジェントルマンに憧憬するアメリカ人全体の正義を代弁しているのです。
ジュリーに扮するジーン・シモンズのLADYぶりに周囲の男たちは恋心を抱きますが、西部は50対1の男女比率だったのです。まして、LADYのハートを射止めるためには、“愛しのクレメンタイン”を歌える位の教養とユーモアの上にジェントルマンでなければならないといった条件もあったのです。
テキサス大平原の荒野を疾駆する駅馬車。砂塵を巻き起こしながら懸命に疾走する馬の蹄の激しい動き、回転する車輪、真剣な表情で目的地を目指す馬の表情。映像に挿入されているジェローム・モロスのダイナミックな音楽。これこそが正統派西部劇の醍醐味なのです。一大西部劇叙事詩を御堪能下さい。
「夢寝由来さん」が絶賛するので、新宿ビックカメラでDVDを購入してしまいました。
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6人がこのレビューに共感したと評価しています。
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男性客主体の西部劇ではありません
2008/05/08 by
夢寝由来
牧坂さん以上のレビューは書けませんが…
本作は西部劇であるがドラマが中心でアクションはむしろ言葉は悪いがオマケと言いたいです。
黒澤明が「赤ひげ」中盤の喧嘩シーンを自らオマケだよと言った言葉に感銘を受け最近は最近は優れた映画はギャング物も時代劇であろうがドラマがしっかり描けている事に気付きアクションはあくまでもサービスなのだと思っています。
丁寧に描いているが人物紹介はかなりスピーディで最初の僅かな時間で主要キャラ4人が人物キャラを含めて客に分かるという脚本とワイラー監督の手腕。
無論、牧童頭リーチが自ら二人を出迎えるというご都合主義もあるがへストンの敵意に満ちた顔と澄ましたジム・マッケイ(ペック)の顔は対照的でワガママお嬢様パット(キャロル・ベイカー)と一見おとなしいが芯の強いジュリー・マリガン先生(ジーン・シモンズ)のコントラストも見事です。
ただジムとジュリーが初対面で“出遭った瞬間に恋に落ちた”的な演出はいかにも…と感じてしまう。
本作は西部劇の武器として拳銃やライフルよりもロープの恐怖を描いた事が特筆物だと思います。
あとジュリーとパットの女同士の友情が描かれている点も評価に値すると思います。今でこそ“女の友情”を描くのは自然ですが当時の映画では“男の友情”が主流で珍しかったと思います。
さすが天才ワイラーです。
余談ですが本作の12年前「白昼の決闘」で珍しく無法者を演じたペックはおとなしい牧童チャールズ・ビックフォード(本作の牧場主テリル)に難癖をつけて射殺するシーンを演じています。 -
一大西部劇叙事詩
2008/05/09 by
牧坂満
「夢寝由来さん」投稿有難うございました。私はアクションが少ないことこそが、新しく変わりゆく西部思想を如実に描いていると思うのです。ネタばれになってしまうので、配役名は書けませんが、死んでいった男たちに西部思想をダブらせて、それをレクイエムにしているのではないでしょうか。その死にゆく思想は…
@正々堂々に対する“卑怯”であり。
A旧態依然とした“時代錯誤”であり。
B忠誠心から生ずる“殉死”だったと思います。
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