史上最大の作戦 (1962) »レビュー

史上最大の油断大敵(推敲)

100点 2008/04/30 by 牧坂満

 「史上最大の作戦」については“じょりちょこさん”が、第三次世界大戦を回避させるための描き方をしている旨を述べられており、興味深く拝聴致しました。また、この映画に関して“黄金のキツネさん”より貴重なご指摘を頂きましたので、加筆・推敲させて頂きます。それでは、映画をドイツ軍内部の組織論に絞って語ってみたいと思います。私たちの世代にとって、この映画はハリウッド映画のスケールの大きさとアメリカ合衆国の国力の超弩級さを痛感させられことになったのです。映画で想像される製作費や人員動員力を考えれば、本物の戦争がいかに膨大な浪費を伴うかもよく分かります。

 高校生時代に「荒野の七人」に登場する七人のガンファイターの名前が全部言えるかというクイズが終了した時点で、「史上最大の作戦」の出演者たちを何人言えるかに移行しました。オールスターキャストの映画だったので、「荒野の七人」クイズより長続きしたのですが、それだけでは満足せずに俳優たちが演じた実在の人物名を覚えるハメになってしまったのです。十代の頃の記憶力に頼りながらドイツ軍司令部が犯した最大のミスを語ってみます。

 ドイツの国民的英雄のエルウィン・ロンメル将軍を演じたのは、ドイツの名優ベルナー・ハインツでしたが、ロンメル将軍はアイゼンハワー大将が暴風雨中にノルマンディ上陸作戦を敢行することはありえないと思っていたので、6月6日の夫人の誕生日を祝うためドイツへ帰国してしまったのです。海岸線を監視するハンス・クリスチャンブレッヒ(人物名を失念しました)は、最初に連合軍のノルマンディ上陸船団を発見したのですが、上司のペーター・ファン・アイク演じるオッカー空軍中佐はこれを一笑に伏してしまうのです。智将ドイツ第7軍司令官マクス・ベムセル少将を演じるボルフガング・プライスは、ノルマンディ上陸作戦が切迫していることを上層部に納得させることが出来なかった無力感を見事に演じています。

 ドイツ軍司令部の麻痺状態は更に続き、荒天にノルマンディ上陸作戦は絶対に決行されないと判断したパウル・ハートマン演じるゲルト・フォンルント・シュテット元帥(総司令官)はノルマンディにいたドイツ軍の幹部将校を作戦会議のためにレネスへ招集してしまうのです。イギリス放送局が詩に託したフランスレジスタンスへ送った上陸作戦の暗号通信をドイツ軍の情報部も傍受するのですが、ドイツ軍司令部に連絡するもボツにされてしまう判断ミス。西部ドイツ軍総参謀長・グンター・ブルメントリット少将(※コーネリアス・ライアンの原作の邦訳版・参考。※西部軍幕僚のTOPならば、ロンメル元帥、シュパイデル中将、マルクス大将より上官である筈。※結論=歩兵科大将。)に扮するクルト・ユールゲンスは、パンザ機甲師団をノルマンディに配備するようヒトラーに許可を要請しますが、ヒトラー側近の国防軍兵士は熟睡しているヒトラーをおこすことが出来ず“総統は熟睡されています”と伝えるだけだったのです。

 「史上最大の作戦」はドイツ軍が犯したケアレスミスから信じられない大過誤に拡大してしまう組織の問題点をドラマ化したものであり、この大過誤のお陰で“Dデイ”に連合軍側は勝利を拡大することが出来たのです。リカルド・ムンク扮する名作戦家のエリッヒ・マルクス将軍をもってしても、ナチズムというファッショ政治によるカリスマ的ワンマンの組織がいかに脆いかを痛感させられる名画です。

 後日、アメリカ合衆国のある著名人によって、第二次世界大戦での最強軍団とは、“アメリカ軍”の将軍たちの戦略を現場で指揮する“ドイツ軍”の将校たちに従う“日本軍”兵士たちだと論述されました。因みに、端役として、「007・ゴールドフィンガー」で敵対するショーン・コネリーとゲルト・フレーベがイギリス軍、ドイツ軍の兵士を演じています。それにしても、これだけの実在する将兵たちを丸暗記しても世界史のテストにはあまり影響がなかったことを付け加えておきます。

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  • Re: 史上最大の油断大敵

    2008/04/08 by 黄金のキツネ

    はじめまして。私は映画「遠すぎた橋」のファンなので、そちらにも登場するブルメントリットについて調べたことを述べます。(ちょっと長いです)

    まず彼は本作(The longest day、オーバーロード作戦、1944年6月)のときも、マーケット・ガーデン作戦(遠すぎた橋、A bridge too far、1944年9月)の時も、西部軍の参謀総長であって総司令官ではありません。総司令官は両作戦時にはフォン・ルントシュテット元帥でした。

    次いで彼の階級についてです。確かに両作戦について書かれたコーネリアス・ライアンの原作の邦訳本では、彼の階級は[少将]です。本作の日本語字幕でも同様です。しかし仮にも西部軍の参謀総長です。西部軍の指揮下にはB軍集団のロンメル元帥やその参謀長のシュパイデル中将、また義足でおいしい役どころを演じたマルクス大将らの軍がいるんです。それらの軍集団や軍に下す命令を策定する西部軍の幕僚のトップがブルメントリットです。そんな低い位の将官で務まるのかなと疑問に思いました。

    そこで調べてみると、IMDbによれば二つの映画での彼の階級はmajor generalとされています。日本語では[少将]です。「遠すぎた橋」の日本語Wikiでもやはり[少将]です。一見すると[少将]で良さそうですが、「史上最大の作戦」での日本語Wikiでは彼の階級は、なんと[上級大将]とされています。

    そして「The longest day」の英語版Wikiでの彼の階級は、General der Infanterie (歩兵大将、ドイツでは大将の場合のみ“兵科”をつける習慣があった)となっています。

    ちなみに「A bridge too far」の英語版Wikiではブルメントリットの階級はSS-Gruppenfuhler(親衛隊中将)となっていますが、これは明らかな誤りです。

    じゃあ、なにが正しいのってことになりますが、このサイト
    ttp://www.islandfarm.fsnet.co.uk/General%20der%20Infanterie%20G%FCnther%20Blumentritt.htm
    が彼の経歴について詳述してあることと、前述の「The longest day」の英語版Wikiの記載から(歩兵科の)大将とみるのが最も妥当だと思います。また上で紹介したサイトはロンメルの参謀長をきちんとGeneralleutnant、中将としています。(原作の邦訳ではシュパイデル少将となっていますが誤りです。)

    なお記憶違いされているだろうと思われる箇所を以下に記します。

    >クルト・ユールゲンスは、パンザ機甲師団をノルマンディに配備するようヒトラーに許可を要請しますが、ヒトラー側近の親衛隊は熟睡しているヒトラーをおこすことが出来なかったのです

    国防軍軍人のブルメントリットが最高司令部に予備の装甲師団について電話したときに、それを受け取ったのはヒトラーの側近ではあっても、親衛隊幹部ということはありえません。言うまでもなく西部軍も国防軍です。国防軍はその指揮下に武装親衛隊が含まれることはあっても、ヒラー側近の親衛隊員から命令を受けることはありません。確かにいくつかの装甲師団はヒトラーの直接の命令がなければ動かし得ない状況でしたが、西部軍総司令部からの要請に応対する上級司令部はやはり国防軍の関係者でなければ務まりません。映画ではヨードルでしたし、コーネリアス・ライアンの邦訳本でもヨードルや、彼の副官のヴァルリモント将軍が西部軍の要請に対応していました。

    なお知将のベムセル少将は、正しくはペムセル少将であり、第7軍司令官ではなく第7軍参謀長です。

    コーネリアス・ライアンの原著自体には当たっていませんが、翻訳者が間違える可能性は大変少ないと思いますので、原著者自身にドイツ将官の階級に関して調査不足があったんだろうと推測しています。

  • ダンケシェーン!

    2008/04/09 by 牧坂満

    「黄金のきつね」さんは「砂漠のきつね」の末裔ではないかと思うくらいの説明に感謝しています。ヒトラー側近だったので、当然のワッフェンSSだとの、不勉強な先入観念があったようです。改めて返信をしたいと思っていますが、取り急ぎお礼申し上げます。

  • 史上最大の油断大敵(推敲)

    2008/04/14 by 牧坂満

    “黄金のキツネさん”有難うございました。貴重なご指摘を頂きましたので、加筆・推敲させて頂きました。また「遠すぎた橋」も再度鑑賞してみたいと思っています。

  • Re: 史上最大の油断大敵(推敲)

    2008/04/16 by 黄金のキツネ

    気づくのが遅れ失礼しました。改稿なさったんですね。

    こちらこそ牧坂満さんのレビューをきっかけに、気になっていたブルメントリットの階級について調べる気になったので、感謝しております。その後、英語のWikiを探してみたら、General der Infanterieとありましたから、やはり(歩兵科の)大将で良さそうです。
    ttp://en.wikipedia.org/wiki/G%C3%BCnther_Blumentritt

    『遠すぎた橋』もお暇なときに是非。

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