牧坂満 さん

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293件中1-10件

  • 80点 ワールドトレードセンタービルとの比較(1)

    2008年5月12日 to タワーリング・インフェルノ

     138階建ての超高層ビルを舞台に繰り広げられる映画にSF的な先入観で観たのですが、21世紀の現代では、UAEのドバイで162階建ての超高層ビルが建設されています。超高層ビルは英語で“Skyscraper”と呼ばれます。勿論、映画でのタワーでも間違いではないようです。

     “バベルの塔”建設という人間の驕りに怒った神がこれを破壊しますが、映画では建築費を渋った資本家により、ビルの除幕式に招待された人々が“そそり立つ地獄”からの脱出を余儀なくされるパニックスペクタクルに仕上がっています。しかし、問題点がかなりの箇所に散見出来る脚本でした。

     @防火扉を開けようとしたら、床のコンクリートの上に捨てコンが盛り上がっていて、防火扉が開かないシーンは、吝嗇家の資本家ならば、生コンのスランプ値(※コンクリートのワーカビリティ“施工軟度”のこと。スランプコーンという円錐型の容器の中にコンクリートを詰めてから引き抜き、その頂点部分の下がった値を測定したもの。)を大きくする筈(軟らかい)であり、少なくても小さくする(硬い)ことはないでしょう。よってスランプ値が大きくなれば、地球の重力によってフラットになることは当然のこととなります。

     A二番目の問題点はスカイスクレイパー(超高層ビル)の一室から脱出しようとして、椅子を窓ガラスにぶつけてガラスを割るシーンです。スカイスクレイパーに嵌め殺し(開閉しない固定状態)してある分厚いガラスは、“9.11”でのジェット旅客機を突入させて破壊すれば可能でしょうが、椅子をぶつけた位では絶対に破壊出来ません。

     B三番目はネタバレになってしまうので詳しく書けませんが、屋上に設置してある受水槽は屋上のスラブの強度を構造計算してあります。中学校の理科で習った、水1立方メートルの比重にあります。

     そんな難点には目を瞑って、スティーブ・マックィーンとポール・ニューマンの共演を素直に鑑賞しましょう。映画では無事に鎮火された“そそり立つ地獄”の残骸が“バベルの塔”を彷彿とさせるように屹立していますが、9.11のワールドトレードセンタービルのように崩れ落ちることはありません。これはワールドトレードセンタービルには耐火被覆としてのアスベストが使用されていなかったがために鉄骨が一気に溶解してしまって崩壊したこととは違った意味を感じさせます。

     しかし、“そそり立つ地獄”の近隣には花粉より遙かに小さく、目には見えないアスベストの繊維が徘徊している筈です。スティーブ・マックィーン自身も“肺がん”で亡くなりましたが、これは、彼が「栄光のル・マン」などの映画やレースを好んできたことにあります。レーサーの耐火服にはアスベスト繊維が詰まっていて、レーサー服が破れれば、そこからアスベスト繊維が漂流し始めるのです。BUT…ポール・ニューマンも「レーサー」という映画に出演する程の自他共に認めるレース好きなのに何故!?きっとレース服が裂ける程にレース好きではなかったのかも!?

     【劇場名不詳】劇場鑑賞
     【ビデオ・マイコレクション】鑑賞

     

    共感:5人

     

  • 90点 バットマスターソン登場(0)

    2008年5月12日 to ワイアット・アープ

     何度も映画化されてきたアメリカ伝説の英雄「ワイアット・アープ」を描いた傑作であり、強靭な精神力でアメリカの正義を護った名保安官という視点だけではなく、様々な挫折を味わいながら人間的に成長していく主人公像に女性ファンへのサービスが感じられます。

     映画の冒頭は決闘に赴く寸前のワイアット・アープのシーンから始まり、それは、フィルムノワールのような暗い画面なのですが、一気に過去へフラッシュバックします。80エーカーのとうもろこし畑の鮮やかな新緑が目に飛び込んで来るのです。ジーン・ハックマン扮する父親のセリフは現代に生きる人々にとっても意味ある言葉となるでしょう。

     ミズーリー州、ワイオミング州、アーカンソー州、カンザス州、アリゾナ州、カリフォルニア州に跨る大河ドラマであり、それは法治国家の体(てい)を成している東部と治外法権状態の西部の違いを描写しているのです。父親がワイアットに教える言葉“無法者には先手あり”にあります。人間性も人格も発展途上だったワイアットを諭す言葉“人生は失うことの連続だ”に心を打たれたのはワイアットだけではないでしょう。

     躍動するバッファローの群れを勇壮に描いており、これがケビン・コスナー自身が監督・主演する「ダンス・ウイズ・ウルブス」に引き継がれました。様々な視点から描かれたアメリカの英雄をどう判断するかは、本作品の観客の目に委ねられていますが、敵対するギャングに兄弟を殺害されたワイアットが至近距離からショットガン(二連発の中折れ式)を二発発射した後にコルト・シングルアクション・バントラインスペシャルから六発全弾を打ち込むシーンにワイアットの抑えられない激情が感じられた人間描写の優れた作品でもあります。

     「OK牧場の決闘」でも私刑(リンチ)のシーンが登場しますが、あちらでは私刑(リンチ)の対象は友人のドク・ホリデイになっています。しかし、本作品では、この私刑(リンチ)の対象者を別人に設定しており、それが見事なワイアット像として結実しているのです。

     「荒野の決闘」から数多くのワイアット・アープが撮られてきましたが、愛しのクレメンタインを上回る“駅馬車”から降りたLADY、ジョージーの魅力に悩殺されました。…ワイアットとジョージーの墓はカリフォルニア州のコルマにあるそうです。

     【ビデオ・マイコレクション】鑑賞

     

     

  • 90点 シェークスピア・ゲーテ・ショパンを理解しない人々(0)

    2008年5月12日 to トゥームストーン

     1879年に南北戦争が終結したことによりアメリカの経済活動は爆発的に発展を遂げていきます。しかし、高度経済成長に伴い犯罪も飛躍的に増加して、当時の殺人発生件数は現代のNYやLAを遙かに上回っていたそうです。舞台は銀鉱山による好景気に沸くトゥームストーンです。

     映画はアメリカの組織犯罪の萌芽として“カウボーイズ”を取り上げており、当時の警察力の脆弱さを描いています。ならず者たちは保安官を脅迫し、神父の言葉に耳を傾けることもありません。自分たちの欲望の赴くままに人を殺害し、物品を強奪し、女性をレイプします。ここで、聖書の黙示録の言葉が引用され、それが伏線となっています。それは、“青褪めた馬を見よ、それに乗る者は死、後に地獄が従う。”

     客車・貨物車を同時連結した蒸気機関車が勇壮に登場して、馬を乱暴に扱う係員をワイアット・アープが叱責します。アメリカ伝説の英雄、ワイアット・アープが登場する見事なシーンです。興味深いのは、本作品ではアープの奥さんがアヘンを常用していることであり、このアヘンは後の映画「ワイアット・アープ」でも出てきますが、麻薬に悩むアメリカの現代の背景を映しているようです。

     そして、お馴染みの悪徳郡保安官ビーハンが登場しますが、ビーハンの服装は東部風であり「大いなる西部」のグレゴリー・ペックを真似ていますが、勿論、中身はペックに遠く及びません。ビーハンは郡保安官でありながら、反中国人連盟会長の他にも税金徴収役、消防隊隊長、不動産委員会委員という日本にも存在する田舎の名士という厭な奴の人物設定。

     本作品では、賭博場の利益から25%を徴収するワイアット・アープの人間臭いところも描いていてアープの見方も多角的視野で観察出来ますが、ドク・ホリデイを単なる無頼漢としては扱っていません。粗野な男たちが徘徊する劇場では、“ヘンリー五世”や“ファウストの悪魔の取引”等が行われているのですが、粗野な無法者たちは、理解出来ない演劇に対して罵声を浴びせたり、中には発砲する輩すら出る始末。アープとホリデイはこれを傍観していますが、これも伏線となっているのです。それは、演劇を鑑賞した後にドクは酒場のピアノで“ショパンのノクターン”を弾くのですが、前出のギャングたちはカントリーウエスタンを弾けないのかと脅迫するシーンに活きているのです。西部での男と女の比率は1対50であり、LADYを探すのは至難の業。持たざる者のストレスは暴力となって暴発する。

     雷鳴轟くトゥームストーンの町の描写は数々のワイアット・アープ映画の中でも抜きん出た迫力であり、その事件の解決方法として、ワイアット・アープが取った行動は彼自身の私的復讐か犯罪者への懲罰かは観客の判断に委ねられます。

     コロラド州グレンウッド療養所にドクを見舞うワイアット・アープのシーンは本作品でも秀逸な時間となります。ドクのセリフ“普通の人生は無い、人生は波乱があるのさ”に自分の人生を振り替えさせる気持にさせられます。そして、ワイアットが去った後で、ドクはベッドの中から一冊の本を取り出すのです。その本は(※ネタバレ注意報)…名画「善き人のためのソナタ」を彷彿とさせます。

     エンドロールではブルース・ブロートンの勇壮な音楽と共に決闘に向かう4人を再度描いていますので、途中退席する人はいなかったでしょうが、主演俳優たちの名前だけが記載され、役名は省かれて流れる中にあって、最後の最後に現れる…AND チャールトン・ヘストン AS HENRY・HOOKER に大変感動しました。

     【ビデオ・マイコレクション】鑑賞

     

     

  • 90点 伝説の英雄はUSマーシャル・連邦保安官(0)

    2008年5月12日 to OK牧場の決斗

     忘却の彼方になってしまったジョン・フォードの不朽の名作「荒野の決闘」を満点として採点した結果が上記の満足度です。また本作品のジョン・スタージェス監督は「墓石と決闘」いう傑作も後日発表していますが、本作品のヒットにより、その後の同監督の日本公開タイトルは「ゴーストタウンの決斗」、「ガンヒルの決斗」と続きました。

     冒頭は西部の大平原を行く馬上の3人が登場して、バックのディミトリー・ティオムキン作曲による口笛が流れます。口笛で名高いイタリア製西部劇の「荒野の用心棒」もエンニオ・モリコーネ作曲による“さすらいの口笛”を挿入しています。多分、監督のセルジオ・レオーネも本作品を観て、それをモリコーネに依頼したのではないでしょうか。さらに付け加えると、端役に過ぎないリー・ヴァン・クリーフを「夕陽のガンマン」に起用して、ダグラス・モーティマー大佐という伝説化したキャラクターを創造したのも本格派西部劇への対抗意識が感じられました。

     ワイアット・アープに関しては様々な人物評価がなされていますが、カーク・ダグラス扮するドク・ホリデイをリンチ(私刑)にかけようとする町民たちからガードし、ドクを正当な裁判に委ねようとする行動から遵法精神が読み取れます。

     そしてワイアット・アープ映画に必ず登場するLADYが駅馬車から降りてきます。本作品ではロンダ・フレミング扮するローラであり、勿論、西部の荒くれ男たちの視線を一斉に浴びる存在なのですが、「荒野の決闘」のリンダ・ダーネル扮するクレメンタインへの初恋的記憶が、ローラの美貌すら半減してしまっています。

     決闘の場に赴くアープとホリデイ他総勢4人が行進するシーンの胸躍る高揚感と、その後にくる殺伐としたガンファイト。講談調の語り口が快感なアメリカ製正統派西部劇の傑作です。本作品中“早撃ちを自慢する奴で35歳まで生きた奴はいない”というセリフが出てきますが、映画、「トゥーム・ストーン」や「ワイアット・アープ」を観ると、アープは1929年まで長生きしていることが分かります。1929年といえば世界恐慌、禁酒法といったローリングトゥウェンティの時代です。アメリカの正義はワイアット・アープからエリオット・ネスに引き継がれていったのでしょう。

     【ビデオ・マイコレクション】鑑賞

     

     

  • 90点 どのバージョンがBESTかを語りましょう(10)

    2008年5月12日 to ブレードランナー 最終版

     劇場公開時の映画がビデオ化されるにあたって次第に浸透していき、それが熱狂的な支持によって、止揚されたSFの名画です。その後、様々なバージョンが登場しましたが、再編集された本作品をBESTと私自身では判断しています。

     本作品の冒頭は「ブラックレイン」の大阪のような夜景が登場します。舞台は酸性雨が降り続く、2019年のLAですが、建築基準法の条例を遵守していない超高層ビルとその間(はざま)に非衛生的なダウンタウンが存在するという設定。格差社会が更に拡大した近未来の環境を描いています。

     物語の構成は凶暴性を持った4体のレプリカントが某・惑星から地球に逃亡。これを追跡するのが「ブレードランナー」と呼称される、人間とレプリカントを識別する特殊能力を持った捜査官なのです。そのナンバー1がデッカードであり、彼は美貌の女性をパートナーにしながら、逃亡したレプリカント一味と壮絶なバトルに挑むのです。

     上記した識別方法は“フォークトカンプラーテスト”と呼ばれ、@毛細血管の拡張による赤面反応。A瞳孔の開閉。B無意識的な虹彩の拡張。の3点によるのです。それを知らされた観客は、登場人物たちを真剣な眼差しで鑑識していったことでしょう。

     けばけばしいネオンに彩られた近未来都市の派手な造形には終戦直後の日本を表現したような漢字が並び、ビルの下に棲息する人々や風俗はアジアがコンジャンクションしているのです。こういった風景に対して、物語のトーンはストイック。登場人物の存在理由に迫る内面的なテーマをハードボイルドな世界に織り込んだリドリー・スコット監督の才能を存分に堪能出来ます。

     そして、やはり映画はエンドロールまで鑑賞しましょう。映画は総合芸術であることを再確認させられる文字が最後に流れます。それは…This film is dedicated to the memory of Philip・K・Dick…原作者、フィリップ・K・ディックに捧ぐ。

     【ビデオ・マイコレクション】鑑賞

     

     

  • 90点 国威発揚映画でありながら反戦思想溢れる名画(0)

    2008年5月9日 to 一番美しく

     大東亜戦争末期に製作された映画であり、情報局選定の文字“撃ちてし止まむ”が冒頭に出てきますが、単なる戦意高揚映画に堕落してはいません。冒頭は40歳前の志村喬演じる朝礼の演説放送からスタートします。場所は神奈川県平塚市にある現・ニコンのレンズ製造工場であり、このシーンだけで現在の北朝鮮を想像してしまいました。

     古き良き時代の日本の礼節が描かれており、女子挺身隊の女工たちは、地方から出て来る際に故郷の土を持参しており、女子寮の壁には両親の写真を飾って、朝夕挨拶をするのです。

     黒澤明監督は、そんな中にあって、一心不乱になって純粋なものを追い求める彼女たちを暖かい眼差しで見つめているのです。また、検閲との軋轢もあったと思われる中で、ヒロイン渡辺つるを演じる矢口陽子の想像世界で撃墜される戦闘機をフラッシュバックさせたり、大戦末期で玉砕していった戦場名を字幕で表現しているのですから黒澤イズム健在といっていいでしょう。

     後の「椿三十郎」で鷹揚な演技を見せた、入江たか子の美しさに驚きましたが、黒澤明監督が本物の気品を求める姿勢がここにあります。入江たか子も「酔いどれ天使」の久我美子も元・貴族階級の出身であり、ルキノ・ヴィスコンティが映画「山猫」の舞踏会に貴族を結集させたことを思い出し、両巨匠の本物への拘りを垣間見た気がします。

     雪深い東北地方の寒村に女工の鈴村を迎えに行った寮母が鈴村の笛の音を聞き届けるシーンが秀逸であり、別のトークコーナーで“夢寝由来さん”が語っておられる“雪が印象深い映画”として投稿したい位の見事なシーンでした。「彼女たちの手は霜焼けだらけよ」のセリフが象徴するように、大戦下にありながら反戦映画としても充分に通用する不朽の名画です。

     【NHK・BS第二放送】鑑賞

     

     

     

  • 100点 映画史上、最も凄絶なレイプシーン(1)

    2008年5月9日 to アレックス

    評価が両極端に分かれる映画ではないでしょうか。ストーリーテリングは現在から過去完了形に逆展開するという難解な構成な上に、重低音の音楽が連続して聴覚を刺激します。結末からスタートする「メメント」と同じ構成ですね。冒頭のゲイクラブの一室での老人ホモ役のヴァンサン・カッセルとアルベール・デュポンテルが、救急車で運ばれる女性モニカ・ベルッチを目撃します。彼女は地下道で暴行され、強姦されるのですが、女性性器に男性性器を没入されるのではなく、彼女の排泄器官への挿入なのです。性器ならばまだしも、アナルセックスとなれば、彼女の人間性も人格も完全に否定されたことになるでしょう。欲望を遂げた男はヒロインの美しかった顔を無残に潰してしまいます。画面はさらに過去に遡り、幸福な時間を過ごしていたモニカ・ベルッチ扮するヒロインの穏やかな光景がラストシーンに現れます。映画はハンディカメラによるものなのか、廻るカメラワークによって酩酊したような状態に陥ってしまい、焦燥感を煽られるような演出に、心理的に不安定な状態にさせられました。
    事実は小説より奇なりではありませんが、あの犯人殺害シーン(消化器で殴られて潰れた顔がクローズアップされます)+延々と続くかと思ったノーカットのアナルセックスによるレイプ・シーンは日本の足立区で起きた女子高校生コンクリート詰め殺人事件の被害者が十人の誘拐・暴行・強姦・殺人・死体遺棄の犯人たちから受けた人間性すら完全に否定された鬼畜行為よりまだマシな方なのです。
    ギャスパー・ノエ監督の作品は一般ウケはしませんが理解しようと努力しなければなりませんね。モニカ・ベルッチもこの凌辱シーンによってハリウッドから出演依頼が殺到したのだから大成功でしょう。

     

    共感:1人

     

  • 100点 人間の基本的本能(0)

    2008年5月9日 to わらの犬

    スーパーバイオレンスムービー屈指の傑作。サムペキンパー監督といえば「ワイルドバンチ」が一番に浮かびますが、ストーリーテリングでは「わらの犬」の方が上だと思います。冷静沈着な理数系のダスティンホフマンが、ならず者たちによって妻を凌辱されたときに、暴力での仕返しを計画します。その方法は計算し尽くされた防衛方法であり攻撃方法でした。ちょっと尻軽の女房役をスーザンジョージが地で演じていて、アウトロー集団によって凌辱されるシーンは凄絶そのものでした。アイルランドのような曇天の田舎町の風景も映画全体に重く陰鬱に圧し掛かかってきます。

     

     

  • 100点 古今東西、暗愚を装う人物は大物(7)

    2008年5月9日 to 椿三十郎

     黒澤明監督の作品にしては短い90分代の映画であり、かつて松竹映画で撮った「白痴」の長尺をメグって会社側にこれ以上カットさせるならば、フィルムを縦に裂けと言った殺気は画面にも時間にも感じられません。

     山本周五郎のヒューマニズムを愛した黒澤監督はこの後に「赤ひげ」を発表しますが、本作品は同じ周五郎のユーモア時代劇を脚色してコメディータッチの痛快時代劇に仕上がっています。よって、ハードボイルドタッチだった前作「用心棒」に比べて、脱力感溢れる鷹揚な画面が展開していきます。正に企画変更が大成功した例であり、前作「用心棒」での三十郎に感情移入出来なかった方も今回は見直したことでしょう。

     三十郎を演じた三船敏郎の芸域の広さは喜劇にこそ、その真骨頂を見るような気がしますが、皆様は如何お考えでしょうか。“間抜けな見方の刀は、敵の刀より危ねェ!ケツでも斬られたらたまんねェ”“うっかり、上手い話に乗ると危ねェぞ!”や仲代達矢扮する室戸半兵衛を評して“さっきのは三人いても、猫だ!しかし、奴は虎だ!”のセリフを喋る時の、くそ真面目な三十郎の表情が逆にユーモアをより面白く感じさせるのです。

     黒澤明監督は大戦中に撮った「一番美しく」の入江たか子(当時は美貌の32歳)を再び起用(すっかり、体型もふくよかになった50歳)して、若手侍たちが“奥方は天衣無縫な性格だから”と説明したのに対して、“少し足りねェのよ”とシニカルに批判させたり、伝説の、壁を乗り越えさせるときに三十郎が踏み台になったときの顔の表情のコミカルさは、一生忘れることはありません。

     緊張感溢れる場面、場面で挿入されていた“鶯”の鳴き声や、伝説の最後のシーンで“草雲雀”の長閑な鳴き声が、後味の悪さを完全に払拭しているのです。

     【国立近代フィルムセンター】劇場鑑賞
     【銀座並木座】劇場鑑賞
     【ビデオ・マイコレクション】鑑賞
     【NHK・BS第二放送】鑑賞

     

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  • 100点 混沌の中に秩序が萌芽するエンディング(2)

    2008年5月9日 to 酔いどれ天使

     終戦直後の東京を舞台に、混沌とした世界に生きながらも、対照的な人生を歩む“やくざ”松永(三船敏郎)と“女学生”(久我美子)を描いた名作であり、後に東映が、医師に同じ志村喬を起用、鶴田浩二のやくざに反する生き方をする少女役に本間千代子をキャスティングした「暴力団」という映画を撮ったほど、衝撃的な映画でした。

     戦後、社会に順応出来ずにアプレゲール(自暴自棄的傾向)に陥る者が多かったのは、同じ黒澤作品の「野良犬」や、深作欣二監督の「仁義なき戦い」でも描かれていますが、黒澤明監督は、やくざ=暴力・否定のメインテーマを重要視、暴力に訴える人間の末路が如何に惨めであるかを描いています。映画画面の中心に居座るような、どぶ池には油が浮き、メタンガスが発生し、生活ごみが投棄されており、画面を見ているだけで、腐臭すら感じさせられます。

     地廻りの顔役だったやくざの松永は肺病を病んで、志村喬扮する飲んだくれの医師の真田に“お前の肺はこの沼みてえなもんだ”と忠告されるのです。そのどぶ池には水死体のように膨張した人形が廃棄されていて、うらぶれた松永の心象風景を見事に表現しています。

     バイオレンスとニヒリズムの魅力をギラギラした野性味で演じる三船敏郎の強烈な個性が、主役である志村喬を圧倒していますが、仁義を信じるやくざ松永に対して、“仁義なんか悪党仲間の安全保障みいたいなもんだ!要は金だ!”と言い聞かせる台詞に、人間観察・批判の凄味すら感じさせ、自嘲するように哀愁を漂わせて笑う酔いどれ医師を演じている志村喬も見事な存在感といえるでしょう。

     「野良犬」でも同じ復員兵でありながら、一方は刑事として、また一方は犯罪者に落ちていく二人を対称的に描いていましたが、「酔いどれ天使」でも、同じ肺病に罹患しながらも真田医師の処方箋を遵守して、病気を克服していく女学生(久我美子)の姿が、混沌の中に秩序が萌芽する意味を表現しており見事なシーンです。本当に強い人間はどちらか!といった黒澤イズムの倫理観が溢れる名画です。

     そして、黒澤イズムと言っていい人間性の回復。ラストシーンで女給役の千石規子がみせた真心や、真田医師と女学生との邂逅には、ヒューマニズムと未来への希望を託して力強く生きていこうとするダイナミズムが感じられるのです。…黒澤明・没後10年、若い世代にこそ観て頂きたい日本映画です。

     【国立近代フィルムセンター】劇場鑑賞
     【銀座並木座】劇場鑑賞
     【DVD・マイコレクション】鑑賞

     

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